求人票の時給は、最低賃金を割っていないか:固定残業代を引いて割り戻すと見えるもの
この記事は、いま出している求人票の月給が最低賃金を割っていないかを、求人票に書いてある数字だけで確かめるやり方を書いたものだ。比べるのは、2026年10月4日から福岡県で時間額1,114円になった最低賃金だ。
順番は4つになる。月給を時給に直す式、固定残業代を含めたまま割ると何が起きるか、固定残業代そのものが足りているか、自分の検査の画面が最初は1円の手前で間違えていた話だ。最後に、自社でやるときの手順を表にした。
給与台帳の側から確かめる話(誰の給与をいくら上げるか、助成金をどう使うか)は、ここでは扱わない。ここで見るのは、応募者が最初に目にする、求人票の一枚のほうだ。
求人票の月給を、時給に直す式
月給で書いてある求人票も、最低賃金と比べるときは時給に直す。式は、基本給と毎月かならず出る手当を足して、1か月の所定時間で割る、というものになる。
1か月の所定時間は、就業規則の休日と1日の時間から出せる。(365日−年間休日)×1日の時間÷12。年間休日105日、1日8時間なら、およそ173時間になる。
このとき、分子に入れない賃金がある。求人票で出てきやすいのは、家族手当、精皆勤手当、通勤手当、それに残業代(時間外・休日・深夜の割増賃金)だ。毎月出ていても、この4つは最低賃金と比べる計算には入らない。賞与のように1か月を超える期間ごとに払うものや、結婚手当のような臨時のものも入らない。求人票の「月給◯万円」がこれらを含んだ額で書かれていると、そこから引いてから割ることになる。
173時間の会社で1,114円を満たすには、比べる対象になる月額が192,722円以上いる。この数字を先に出しておくと、求人票を上から見ていくときに手が速い。
固定残業代を含めたまま割ると、時給は高く見える
いちばん見落としやすいのが、固定残業代だ。求人票では「月給21万円(固定残業代3万円・20時間分を含む)」のように、月給の中に入れて書かれることが多い。
この21万円をそのまま173時間で割ると、時給は1,213円になる。1,114円より99円高いので、一見なにも問題がない。
ところが固定残業代は残業代なので、最低賃金と比べる分子からは外す。21万円から3万円を引いた18万円を173時間で割ると、時給は1,040円で、1,114円に届かない。
自分が作った採用の試作で、架空の運送会社の求人票にこの数字を入れたとき、画面の「最低賃金との差」が赤になった。求人票の見た目の数字では高く見えていて、引いてから割ると割れている、という形は、たぶん珍しくない。固定残業代を3万円含む書き方のまま1,114円を満たすなら、月給は222,722円以上が要る計算になる。
固定残業代そのものも、割増が足りているか
固定残業代には、もう1つ確かめることがある。払っている額が、書いてある時間分の残業代として足りているかどうかだ。
1時間あたりの固定残業代(金額÷時間)が、時給の1.25倍以上になっているかを見る。時間外の割増は2割5分以上と決まっているからだ。さらに下限として、最低賃金の1.25倍に時間数をかけた額を下回っていないかも見る。20時間分なら、1,114円×1.25×20時間で27,850円が下限になる。
ここで気をつけたいのが、月給に幅がある求人票だ。「月給23万〜30万円(固定残業代3万円・20時間分を含む)」の場合、固定残業代は1時間あたり1,500円になる。下限の23万円の人なら時給は1,156円で、その1.25倍は1,446円なので足りている。ところが上限の30万円の人だと時給は1,560円になり、1.25倍は約1,951円で、20時間分なら約3万9千円が要る。同じ求人票の中で、上限の人だけ固定残業代が足りないということが起きる。
自分の検査の画面も、最初は1円の手前で間違えていた
この2つの確かめ方を、自分は採用の工程を見せる試作の中に検査として組み込んだ。その検査が、最初は2か所で間違えていた。
1つ目は、固定残業代の割増を月給の下限だけで計算していたことだ。上の例の上限30万円の人は割増が足りないのに、画面には「足りています」と出ていた。幅のある数字は両端で確かめる、という当たり前のことを、作る側の自分が落としていた。
2つ目は、丸めの順番だった。月給192,650円を173時間で割ると、1,113.58円になる。これを先に四捨五入して1,114円にしてから最低賃金と比べていたので、画面には「最低賃金を満たしています」と出ていた。実際は1円未満とはいえ割れている。別の道具に検品させて、はじめて見つかった。
表計算で時給の列を整数で表示しているだけでも、目に入る数字は1,114円になる。判定は丸める前の数字でして、表示だけ1円未満を切り捨てる。法で決まった下限と比べる計算は、丸めを最後にする。直したのはこの2点で、どちらも求人票を作る社長の手元でそのまま起きうることだと思っている。
自社でやるなら:求人票1枚を5分で確かめる順番
| 順 | やること | 使う数字 | 見るところ |
|---|---|---|---|
| 1 | 求人票の月給から、固定残業代と家族・精皆勤・通勤手当を引く | 求人票の月給(下限と上限の両方) | 基本給+毎月かならず出る手当だけが残っているか |
| 2 | 1か月の所定時間を出す | (365−年間休日)×1日の時間÷12 | 就業規則の休日と時間で計算しているか |
| 3 | 1を2で割り、丸めずに1,114円と比べる | 小数のまま | 1円未満の割れを見逃していないか |
| 4 | 固定残業代÷時間が、時給×1.25以上か | 月給の下限と上限の両方で | 上限の人で足りなくなっていないか |
| 5 | 固定残業代が、1,114円×1.25×時間以上か | 20時間なら27,850円 | 時間数が書いてあるか |
| 6 | 求人票の書き方を確かめる | — | 固定残業代を除いた基本給・時間数と金額・超えた分は別に払うこと、の3つが書いてあるか |
固定残業代の書き方は、求人票の書き方の記事でも触れた。ここで足しておきたいのは、4と5を月給の上限でも計算することだ。
割れているのは、たいてい下限の欄と、上限の固定残業代
求人票で最低賃金が割れているとき、割れているのは月給の下限の欄で、固定残業代を引いたあとの数字であることが多い。もう1つ足りなくなりやすいのは、上限の人の固定残業代のほうだ。
試作では、求人票の文面を出す前に、この検査を通る順番にした。数字を入れ直すたびに結果が変わるので、いくらにするかを決める手前で、割れているかどうかだけは先に分かる。いくら払うかを決めるのは社長で、検査はその手前の確認でしかない。
よくある質問
- Q. 時給で出しているパートの求人票も、確かめる必要がありますか。
- A. あります。時給の求人は、書いてある時給が1,114円以上かをそのまま見ます。月給の求人と違って割り戻しは要りませんが、手当を足した額で時給を書いていないかは確かめてください。
- Q. 固定残業代を使うこと自体が、よくないのですか。
- A. 使うこと自体は問題ありません。使う場合は、固定残業代を除いた基本給の額、時間数と金額、超えた分を別に払うこと、の3つを求人票に書き、割増が月給の下限と上限の両方で足りているかを確かめます。
- Q. 年間休日の日数が分からないときは、どうしますか。
- A. 就業規則の休日を、日曜・土曜の休み・祝日・年末年始・お盆などに分けて数えれば出ます。1日の時間は休憩を除いた時間を使います。賃金の個別の判断は、社会保険労務士か労働基準監督署に確認してください。
内部根拠
筆者は上場企業2社で主に人事・労務を担当してきた。本文の計算例の数字は、筆者が2026年10月に作った採用の工程の試作に入れた架空の求人票のもので、出典の[S2]〜[S3]に対応する。最低賃金の額・対象から除く賃金・割増の率は[S1][S4][S5]の公的な情報による。
出典
- [S1] 福岡労働局 報道発表「福岡県最低賃金の57円引上げを答申 − 福岡県最低賃金額は1,114円へ −」(2026年8月12日・福岡県最低賃金を1時間1,114円とする・効力発生の日は令和8年10月4日の見込み)(閲覧日:2026-10-20)
- [S2] 筆者が作った採用の工程の試作(2026年10月・求人票の検査=時給換算・最低賃金の対象から除く手当・固定残業代の割増と下限・求人票に書く3点)。例の数字はすべて架空
- [S3] 同じ試作の作業記録(2026年10月1日・検査の不具合2件と直し方・内部記録)
- [S4] 厚生労働省「最低賃金の対象となる賃金」(対象から除く6区分=臨時に支払われる賃金・1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金・時間外割増賃金など・休日割増賃金など・深夜割増賃金などのうち通常の賃金の計算額を超える部分・精皆勤手当、通勤手当及び家族手当。最低賃金法第4条第3項・同法施行規則第1条)(閲覧日:2026-10-20)
- [S5] 労働基準法第37条第1項と、同項の割増賃金の率の最低限度を定める政令(時間外労働は2割5分以上)