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業務分解とは?——なぜ採用より先に「分ける」のか

業務分解とは、仕事を「判断・手順・単純入力」に分けて、人にしかできない部分だけを人に残す方法だ。人手不足の打ち手は、人を増やすことではなく、いまある仕事を分けて配り直すこと。まずここから話す。

ドライバーが1人辞めた。求人を出しても応募が来ない。仕方なく残った社員に無理をさせて、社長も自分で1便走る。そんな月が続くと、頭に浮かぶのは「もう1人採らないと回らない」だ。けれど求人を出しても、集まらない。単価を上げるお金もない。この行き止まりに、多くの現場が立っている。

ここで一度、立ち止まりたい。辞めた1人は、本当に「ドライバー1人分」の仕事をしていたのだろうか。運転はもちろんしていた。でもその横で、荷物の積み下ろしをして、帰ってきたら日報を書いて、月末には請求書もさばいていた。運転以外の部分まで含めて「1人分」に見えていただけかもしれない。足りないのは人ではなく、仕事の分け方のほうだ——という見方が、業務分解の入り口になる。

システム化で失敗する会社には、共通点がある。業務の棚卸しをせずに、答え(システム)から入っていることだ。営業のうまい言葉に飛びついて高いソフトを入れたのに、現場が何も変わらなかった——そういう会社を、これまで何度も見てきた。順番を逆にしただけで、道具は死ぬ。

業務分解とは何か

業務分解とは、ひとつの仕事を「判断・手順・単純入力」の三つに割って、それぞれ一番合った先へ配り直す考え方である。難しい言葉に見えるが、やっていることは魚屋の仕事に近い。マグロを一頭まるごと赤身の値段で売っている魚屋がいたら、もったいないと思うはずだ。部位で分ければ、大トロ・中トロ・赤身が、それぞれの値段で売れる。

いまの多くの現場は、このマグロを一頭まるごと赤身で売っている状態に近い。何でもこなせる正社員という「一番単価の高い人」に、一番単価の安い作業まで載せている。運転も、積み下ろしも、日報も、請求書も全部。正社員は確かに何でもこなす。でも基本給は一番高い。一番単価の高い人に、一番単価の安い作業まで載せている——これが人手不足の正体の半分だ。仕事も、部位で分ければ配り直せる。運転は代えがきかないから残す。積み下ろしは早朝パートに回す会社もある。日報や請求書のような定型作業は、いまは道具に渡せる時代になった。

なぜ採用より先に「分ける」のか

採用から入ると、たいてい行き止まりにぶつかる。ドライバーの求人は、そもそも母数が少ない。単価を上げないと振り向いてもらえないが、上げれば人件費が重くなる。一方で、統計的に、事務職の求人はドライバーよりずっと集まりやすい。ここに分解の効きどころがある。ドライバーに張りついた事務作業を剥がして、採りやすい事務職に渡す。それだけで、ドライバーを1人採るより早く現場が回り出すことがある。

この「人に張りついた仕事」を放置したまま採用に走ると、辞めた人と同じ塊をまた一人に背負わせることになり、次の「あの人がいないと回らない」を再生産してしまう。採用の前に分解を挟むのは、この再生産を止めるためでもある。

業務分解の4ステップ

手順は4つに割れる。見る、捌く、値づけする、並べる。書いてしまえば当たり前の順番だが、現場ではこの順番が守られないことが多い。システムの営業は「並べる」から話を始めるし、忙しい会社ほど「見る」を飛ばしたくなる。

ステップ1:見る——業務の棚卸し

最初にやるのは、業務の全部を「見える」ようにすることだ。分解も、AI化も、システム化も、この土台がないと全部失敗する。きれいな表は要らない。実際の手順はこうだ。まず担当者のフォルダを開けて、マニュアルではなく実際に使っているファイルを見る。仕事の本当の流れは、マニュアルよりフォルダに残っている。次に、その業務を数回、自分でやってみる。そして手間に見える作業ほど「なんでこのやり方なんですか」と聞く。手間な工程には理由があることが多く、別のシステムで使うデータだったり、過去の大きなミスの再発防止だったりする。理由ごと消すと事故になるし、理由がもう消えていればその工程は削れる。データは直近だけでなく数年分を見る。去年の担当者が初めてのやり方をしていて、それ自体が間違っていた可能性があるからだ。

ステップ2:捌く——「判断・手順・単純入力」に割る

見えたら、一つひとつの業務を三つに割る。前提知識が要る「判断」、決まった手順の「作業」、誰でもできる「単純入力」。このとき大事なのは、「人」で分けないことだ。「これは佐藤さんの仕事」ではなく、「この仕事の中の、どの部分が判断で、どの部分が入力か」で分ける。人で分けている限り、属人化はほどけない。仕事の側を割ってはじめて、配り直せる形になる。

分類中身配り直す先
判断前提知識と経験が要る。例外対応・優先順位づけ・相手との調整知識のあるベテランに残す(その人の価値の源)
作業決まった手順で進むが、人の手が要る。定型のやりとり・確認手順書にして、採りやすい職種(事務パート等)へ渡す
単純入力誰がやっても結果が同じ。転記・集計・読み取り道具(AI・システム)へ渡す

ステップ3:値づけする——配り直す

割ったものを、それぞれ一番合った先へ配り直す。判断は、知識と経験のある人に残す。ドライバーなら運転、ベテラン事務なら例外対応。ここがその人の「大トロ」で、給料はここに払っている。作業は、手順書にして採りやすい職種に渡す。ドライバーに張りついた事務を剥がして事務パートに渡せば、ドライバーを1人採るより早く現場が回り出す。単純入力は、道具に渡す。数年前ならシステム構築に数十万〜百万円かかった作業が、いまは月数千円から一万数千円ほどの範囲で組めるようになってきた。備品と考えると高いが、社会保険込みでパートに1〜2日来てもらう金額であり、人件費と考えると妥当な数字だ。

この「単純入力を道具に渡す」ときに、多くの社長が最初に不安になるのが、社内の情報を外に出していいのか、という点だ。無料のAIに会社のデータを入れていいのか、どこまでを道具に任せられるか。ここは、道具を選ぶ前に決めておくところだ。

ステップ4:並べる——ダブルチェック前提で回す

配り直したら、一気に全部は変えず、1つずつ動かして回す。AIや新しい道具に渡した作業は、人のダブルチェックを前提に組む。いまのAIは間違えるからだ。「AIが作った根拠を出させて、人が承認する」——たとえば経費精算なら、AIに理由を提示させて社長が承認する——という流れにしておけば、間違いは工程の中で拾える。精度が上がってきたら、チェックの間隔を広げればいい。順番は、効果とコストの見合いで決める。人件費が一番かかっている業務、一番「あの人しかできない」と言われている業務から、1つずつ。全業務を一気にやる必要はない。

分解したあと、どこに配り直すか

「作業」や「単純入力」を剥がしたあと、その受け皿は道具だけではない。配り直す先は、ざっと四つある。組み合わせて使うのが前提だ。

大事なのは、剥がした作業を「また一人の社員に全部載せない」ことだ。せっかく分解しても、受け皿を一つに寄せると、また属人化に戻る。四つの先へ薄く配るほど、辞められても止まらない現場になる。

他の会社は、どう分けているのか

分解と配り直しは、公開されている事例でも成果が出ている。

ひとつは、積み下ろし専門の社員を荷主の拠点に常駐させて、ドライバーの荷役・附帯作業を切り離した運送会社の例だ。運転と非運転を分けただけで、トラック1台あたりの実車時間が1〜1.5時間増えたと報告されている。高いシステムを入れたわけではない。人の配置を分け直しただけで、車が動く時間が増えた。ステップ2の「捌く」を、そのまま現場でやった形だ。

もうひとつは、働き方を分けて設計し直した運送会社の例だ。荷主から直で受ける形に変え、働き方を複数のコースに分け、「残業をしないこと」も評価の対象にした。その結果、応募が前年比で10倍(約200人)に増え、15人を採用できたと報告されている。求人票の文言をいじる前に、仕事と働き方の側を組み替える——分解の発想を採用にまで広げた例だと言える。

よくある質問

Q. 業務分解とは、そもそも何ですか?
A. 業務分解とは、ひとつの仕事を「判断・手順・単純入力」の三つに分けて、人にしかできない部分だけを人に残す考え方だ。今の現場は、給料が一番高い正社員に、運転も、積み下ろしも、請求書処理も、まとめて載せてしまっていることが多い。その塊を三つに割り、判断はベテランに残し、手順は採りやすい職種に渡し、単純入力は道具に渡す。人手不足の打ち手が「採用強化」ではなく「配り直し」に変わるのは、この分解を通したときだ。
Q. うちの業務は特殊で、分解できない気がします。
A. 「特殊で分解できない」と感じる部分こそ、属人化の本丸であることが多い。特殊に見えるのは、前提知識とイレギュラー対応が、その人の頭の中にだけあって、言葉になっていないからだ。手間に見える工程を「なんでこのやり方なんですか」と聞き出していくと、特殊さの大半は「言葉にしていなかっただけ」に変わる。そうして残った、本当に特殊な部分が、その人にしか出せない価値になる。そこは分解せず、残す。
Q. 業務の棚卸しに、どのくらい時間がかかりますか?
A. 全社を一斉にやろうとすると終わらないので、1業務から始める。ひとつの業務なら、担当者のフォルダを見て、数回自分でやってみて、手間の理由を聞く——数日から1週間ほどで、その業務の流れは見える。そこで配り直せるものが1つ見つかれば、浮いた時間で次の業務に進める。棚卸しそれ自体が回り出す設計にしておくと、忙しい現場でも止まらない。きれいな一覧表を先に作る必要はない。
Q. 分解して道具に渡すと、社員の仕事を奪うことになりませんか?
A. 逆になることが多い。道具に渡すのは「単純入力」の部分で、それはもともと、その人の給料に見合わない作業だった。空いた時間を、判断・調整・育成——人にしかできない部分に戻す。人を減らすのではなく、仕事の中身を組み替える発想だ。むしろ、単純入力に追われて残業していた人ほど、分解のあとに本来の役割へ戻れる。奪う話ではなく、集中してもらう話として設計する。
Q. 分解のあと、道具に渡した作業が間違っていないか不安です。
A. 今のAIは間違えるので、人のダブルチェックを前提に組む。おすすめは「AIに根拠を出させて、人が承認する」流れだ。たとえば経費精算なら、AIに判断の理由を提示させて、社長が最後に承認する。こうしておけば、間違いは工程の中で拾える。精度が上がってきたら、チェックの間隔を広げればいい。最初から人の手を完全に抜くのではなく、ダブルチェックの網を少しずつ緩めていく設計にする。

内部根拠

筆者自身の経験では、欠員が出た6名のチームの業務を三列(残す・移す・道具に渡す)に分解して再配置したところ、補充なしの5名で回り、正社員1名分の工数を吸収できた。誰も解雇していない。詳しい経緯は「誰も切らずに、6名分の仕事を5名で回した話」に書いた。

出典1(非運転の分離=実車時間+1〜1.5h/台):国土交通省『トラック輸送の生産性向上に向けた手引き』(閲覧日:2026-07-11)

出典2(働き方の再設計=応募 前年比10倍・15人採用):国土交通省『トラックドライバーが納得できる評価をして働きがいのある職場づくり好事例集』(閲覧日:2026-07-11)

見る、捌く、値づけする、並べる。道具は良くなり続けているが、この順番だけは変わらない。人を増やす前に、いまある仕事を一度、部位に分けてみる。分けてみると、辞めた1人が背負っていた塊の中に、道具や他の人に渡せる部分が、思ったより多く混じっていることに気づくはずだ。

()|著者:りゅうた(物流のプライム上場を含む上場企業2社で10年以上、主に人事・労務・総務。福岡で中小企業の業務改革を研究中。)
現場の話の続きは、noteでも書いています → りゅうた@中小企業の業務改革

この記事は「業務改善のはじめ方」シリーズの一部です(全5本)