業務分解のやり方——「分けろ」と言われても、どう分けるか
業務分解のやり方は、突き詰めると3つしかない。仕事を書き出す。判断・手順・単純入力の3つに分ける。分けたあとの判断を、正しい人に返す。この順番で机の上に広げれば、「特殊で分けられない」と思っていた仕事も、たいてい分けられる。以下は、運送会社・建設会社の事務を例に、担当者が今日から手を動かせる手順として書いた。
- 「効率化して」「AIを入れよう」と言われたが、どこから手をつけるか分からない
- 毎月ほぼ同じ事務作業に、なぜか半日以上かかっている
- 「この仕事、あなたが休むと止まる」と言われたことがある
正直に白状すると、私自身が最初にこれをやろうとして、書けなかった。20代後半の頃、上司から「部署の業務を棚卸ししてみて」と頼まれた。ところが、いざ紙に向かうと、何をどう書けばいいのか分からない。毎日やっている仕事なのに、言葉にならない。手が止まったまま、締め切りだけが来た。あのとき分かったのは、業務分解のいちばんの難所は「分ける」ことではなく、その前の「見えるようにする」ことだ、ということだった。
だからこの記事は、概念の説明ではなく、手を動かす順番の話にする。「業務分解とは何か」を先に知りたい人は、業務分解とは?——なぜ採用より先に「分ける」のかを読んでから戻ってきてほしい。ここでは、その考え方を実際の机の上でどう使うかだけを書く。
手順1:書き出す——1週間、15分のメモだけ
最初にやるのは、一覧表づくりではない。ノートを1冊用意して、1週間、ひとつの仕事を終えるたびに「何を・何分やったか」だけを1行で書く。これだけだ。請求書の入力に40分、荷主への電話に15分、日報の転記に30分——そんな粒度でいい。きれいにまとめようとした瞬間に手が止まるので、汚くていい。筆者がいた物流の会社でも、コロナを機に本社の事務はテレワークへ移った。ただ現場の事務所は、トラックと荷物の動きに引っ張られて出社のままだった——現場と一緒に動くのは、ある意味で正しい。とはいえ働く場所が割れた分だけ「誰が・どこで・何を」はぼやける。だから、この1週間のメモが効く。
コツは、マニュアルを見ないことだ。仕事の本当の流れは、マニュアルよりも、実際に開いているファイルとメモの中にある。1週間書き溜めると、頭の中にあった仕事が机の上に並ぶ。私が書けなかったのは、いきなり完成した表を作ろうとしたからで、この「終わるたびに1行」に変えると、驚くほど楽に出てくる。
手順2:分ける——「判断・手順・単純入力」に線を引く
書き出せたら、1行ずつに印をつけていく。分類は3つだけ。判断(前提知識や経験が要る。例外対応・優先順位づけ・相手との調整)、手順(決まった流れで進むが人の手が要る。定型のやりとり・確認)、単純入力(誰がやっても結果が同じ。転記・集計・読み取り)。
| 分類 | 運送・建設の事務での例 | 本来の行き先 |
|---|---|---|
| 判断 | 荷主・施主とのやりとりの匙加減、請求のもめごとの落とし所、優先順位づけ | 知識のあるベテランに残す |
| 手順 | 受注メールの返信、発注連絡、点検・免許更新の期日管理 | 手順書にして、採りやすい職種へ渡す |
| 単純入力 | 日報から月次への転記、請求書と受領書の突合、CSVの集計 | 道具(AI・システム)へ渡す |
ここでいちばん大事なコツは、「人」で分けず「仕事」で分けることだ。「これは佐藤さんの仕事」で切ると、いつまでも属人化はほどけない。「佐藤さんの仕事の中の、どこが判断で、どこが単なる転記か」で線を引く。迷ったら、その工程に問いを立てるといい。私は昔、給与計算の担当者に「なんでこれをしてるんですか」と聞いて回ったことがある。すると、理由がすぐ言える工程と、「昔からこうなので…」としか出てこない工程に、はっきり分かれた。理由が言えるものは残すべき判断、思い出せないものは削れる手順のことが多い。
手順3:分けたあとの判断を、正しい人に返す
ここが、担当者がいちばん踏み外しやすいところだ。分けると、必ず「で、これはやめていいのか」「渡していいのか」という問いが出てくる。この判断は、担当者の仕事ではない。やめる・お金を使って渡すを決めるのは、会社全体を見ている社長や上司だ。担当者が独断でやめると、あとで「あの転記は別部署が使っていた」と事故になる。逆に、社長も丸投げでは決められない。判断の材料——どの作業が何分で、やめるとどこに影響するか——を持っているのは、現場で書き出した担当者のほうだからだ。
だから業務分解の本当のゴールは、作業を消すことではなく、社長が判断しやすい形に仕事を並べ替えることにある。単純入力に何時間取られているかが数字で見えれば、「ここは道具に渡そう」の判断は一気に速くなる。実際に、欠員が出たチームの仕事をこの3つに分けて配り直し、補充なしで回した例は別の記事に書いた。分けたあとに何が起きるかの実物として読んでほしい。
最初の一歩——0円、15分でできること
大がかりな準備は要らない。今日できるのは、これだけだ。
- ノートを1冊決める(スマホのメモでもいい)。費用はゼロ。
- 今週、自分の仕事を終えるたびに「何を・何分」を1行で書く。1回15秒、1日1〜2分。
- 金曜に見返して、単純入力(転記・集計・突合)の行に丸をつける。丸の合計時間が、いちばん先に道具へ渡せる候補だ。
ちなみに、この「単純入力を減らす」ことは、いま社長が抱えている悩みと直結している。トラック運送の世界では、点呼や安全、労働時間の記録といった「守るべき事務」がむしろ増える方向に法改正が進んでいる。増える事務に人の手が追われないためには、減らせる事務を先に道具へ逃がしておくしかない。減らした時間で何が浮くのかは、議事録1本8,000円の記事に実測で書いた。
社長への渡し方
担当者がこの手順をやったら、最後は一言で社長に上げるといい。社長にはこう伝えてください——「この作業を3つに分けてみました。会社として、これだけの手作業があります。ここは道具に任せれば減りそうです。減った分は、お客さんへの連絡と現場の応援に回せます。やるかどうかは、社長の判断にお任せします」。コツは、AIやDXといった流行りの言葉を出さないことだ。社長が聞きたいのは道具の名前ではなく、お客さんと社員に何が返ってくるか。事実と使い道が乗っていれば、返事は「検討しとく」から「じゃあ試そう」に変わりやすい。分解は、担当者が社長を動かすための、いちばん静かな道具だ。
よくある質問
- Q. 業務分解のやり方は、何から始めればいいですか?
- A. 書き出しから始めます。きれいな一覧表を先に作ろうとすると、たいてい止まります。ノートを1冊用意して、1週間、ひとつの仕事を終えるたびに「何を・何分やったか」だけメモする。それだけで、頭の中にあった仕事が机の上に出てきます。分けるのはそのあとで十分です。最初から全社をやろうとせず、自分の担当の1業務からで構いません。
- Q. 業務を「判断・手順・単純入力」に分けるコツはありますか?
- A. 「人」で分けず「仕事」で分けるのがコツです。「これは自分の仕事」ではなく、「この作業の中の、どこが判断で、どこが単なる転記か」で線を引きます。迷ったら、その工程に「なんでこのやり方なんですか」と問いを立ててみてください。理由が言えれば残すべき判断、理由が思い出せなければ削れる手順、誰がやっても結果が同じなら単純入力です。
- Q. 分けたあと、やめる仕事や渡す仕事は誰が決めるのですか?
- A. 分ける作業と、やめる判断は、別の人の仕事です。担当者ができるのは「候補を並べるところ」まで。どの業務をやめるか・どこに予算を使って渡すかは、会社全体を見ている社長や上司の判断です。担当者が独断でやめると、あとで「あれは他部署が使っていた」と事故になります。分解のゴールは、社長が判断しやすい形に仕事を並べ替えることです。
この記事の立場
物流の会社で、主に人事の側から現場を見てきた経験からの整理です。本文の「棚卸しを頼まれて書けなかった」「給与計算の担当者に理由を聞いて回った」は、いずれも筆者自身の実体験で、他社の成功事例の転記ではありません。手順は誰にでも当てはまる形にしていますが、実際に効くかどうかは自社の1業務で試した数字がすべてです。まず1週間、書き出してみることを勧めます。
分けろ、と言われて固まった20代の自分に、いま一つだけ渡せるなら「表を作ろうとするな、終わるたびに1行だけ書け」だ。それだけで、見えなかった仕事が机に並ぶ。並んでしまえば、あとは3つに切って、判断を正しい人に返すだけ——業務分解のやり方は、本当にそれだけである。その記録として、この記事を書いた。