現動パートナー|業務改革ブログ

誰も切らずに、6名分の仕事を5名で回した話

チームから欠員が出たとき、補充の求人を出す前に「抜けた人の仕事を分解して、残る人に配り直す」という手がある。実際、6名でやっていた仕事が5名で回り、正社員1名分の人件費が浮いた。しかも誰も切っていない。人を減らすのではなく、仕事の配り方を組み替えるだけで、採用市場で戦わずに人手不足に効く。

チームから1人、欠員が出た。普通なら「補充の求人を出す」場面だ。実際、周りからもそう聞かれた。でも、出さなかった。代わりにやったのは、抜けた人の仕事を机に広げて、バラすことだった。

「なぜ補充しないのか」と、最初は不思議がられた。でも一度立ち止まって、抜けた人が持っていた仕事を一つずつ書き出してみると、その全部を新しい1人に丸ごと渡す必要はない、と見えてきた。求人票を書く手を止めたのは、その瞬間だった。

何をしたか——採用の前に、分解した

当時のチームは、正社員と派遣を含む計6名だった。そこから1人抜けて、選択肢は2つあった。同じような人を採って同じ形に戻すか、仕事の側を組み替えるか。

やったのは後者だ。抜けた人が持っていた業務を、判断が要るもの・手順が決まっているもの・単純な入力作業に分けて、残る5人に配り直した。判断は経験のある正社員に寄せ、手順化できるものはマニュアルにして手順作業の得意なメンバーに渡し、単純な入力は仕組みに落とした。この「判断・手順・単純入力」に分ける考え方は、業務分解の4ステップで詳しく書いている。

結果、6名でやっていた仕事が5名で回った。正社員1名分の人件費が浮いた計算になる。そして、ここが大事なところだが——誰も切っていない。辞めた人の椅子を埋めなかっただけだ。残った5人の残業が増えたわけでもない。仕事の総量は同じで、配り方が変わっただけだった。

もちろん、初日から完璧に回ったわけではない。配り直した直後は「これは誰の担当だっけ」という迷いが残り、線を引き直すのに少し時間がかかった。きれいに一発で決まる話ではなく、渡し方を何度か微調整して、ようやく落ち着いた。

これは事務部門の話だが、運送の現場でも構図は同じだ。運転そのものは分解できなくても、ドライバーに載っている請求書・日報・積み下ろしの前後作業は、同じやり方で剥がして配り直せる。「うちはドライバーの会社だから当てはまらない」と読まずに、分解できない部分(運転)と、できる部分(それ以外)を切り分けて読んでほしい。

業務の再配置とは

業務の再配置とは、人を減らしたり増やしたりする前に、いまある仕事を「判断・手順・単純入力」といった小さな単位に分解し、それぞれを得意な人や道具に配り直すことである。人に仕事を張り付けるのではなく、仕事の側を組み替える。この順番が、採用と決定的に違う。

この再配置ができると確信を持てたのは、それ以前の経験がある。以前いた職場で、自分とはまったく得意の違うメンバーと同じチームで働いたことがある。ある決まった作業では、その人のほうが自分よりはっきり速かった。得意で切り分けて渡せば、一人ひとりが持ち場で戦力になる——それを目の当たりにした。

このとき分かったのは、「どんな人を雇えるか」という問いの立て方そのものが、少しずれているということだ。正しい問いは「業務を、得意で渡せる単位に分解できているか」。分解さえできていれば、渡す先は時短のパートでも、シニアでも、道具でもいい。分解できていないから、「なんでもできる正社員」しか採れなくなる——そして今の採用市場で、その人はもう来ない。

「減らす」と「組み替える」は、なぜ別物なのか

人事をやっていて、ずっと引っかかっていたことがある。営業は売上を伸ばすと表彰される。でも人事が人件費の最適化を提案しても、営業のようには評価されない。当たり前とされるだけだ。だから多くの会社で、人件費の話は「削るか、我慢するか」の二択に貧しくなっていく。

再配置の話は、その二択の外にある。人件費は確かに1名分下がった。でも誰の給料も下げていないし、誰も切っていない。むしろ残ったメンバーには、得意が活きる仕事が増えた。「減らす」と「組み替える」は、決算書の上では似ていても、現場ではまったく別のことが起きる。 辞める人が出ない、教育コストが再発しない、そして「この会社は人を大事にする」という空気が残る——これは求人票のどんな文言より効く。ちなみに、その求人票そのものの書き方は来る求人票と来ない求人票で扱った。

欠員は、業務分解の最大のチャンス

いちばん伝えたいのは、タイミングの話だ。業務分解をやろうとして「今は忙しいから」と流れる会社は多い。平時にやるには気力が要るからだ。でも欠員が出た瞬間だけは、全社が「仕事の配り方」を考えざるを得なくなる。

この瞬間に反射的に求人票を出すと、同じ属人化がもう一周始まる。逆にここで1週間だけ立ち止まって分解すると、求人媒体への出費と、新人が戦力になるまでの教育の数ヶ月が、まるごと浮く可能性がある。そもそもドライバーの有効求人倍率は2.6倍前後——1人を複数の会社で奪い合う市場だ。そこで戦わずに済むなら、それに越したことはない。欠員は損失ではなく、組み替えの号砲だ。そう捉えられるかどうかで、5年後の組織の形が変わる。人件費そのものより先に、いまの給与を「説明できる」状態にする話は給与が説明できないと人は辞めるに書いた。あわせて読むと、この打ち手が効く理由がわかると思う。

※人件費の再配置は、賃下げや解雇とは別の考え方です。実際に配置転換や処遇の変更に踏み込む場合は、就業規則・労働条件の観点から社会保険労務士に確認してください。

月曜の朝にやること

次に欠員が出たら——あるいは今、補充を迷っているポジションがあるなら——求人票を書く前に1週間だけ、これをやってみてほしい。

  1. その人の仕事を1枚の紙に書き出す。
  2. 書き出した仕事を「判断/手順/単純入力」の三列に分ける。
  3. 「判断」の列だけを見て、これを本当に新しい1人に全部渡す必要があるかを問い直す。
  4. 「手順」「単純入力」の列は、いまいる人と道具で持てないかを考える。
  5. それでも採用が必要なら、「判断の列」だけを書いた求人票を出す。

仕事が明確な求人は、応募も定着も変わってくる。全部を1人に押し込んだ求人票より、はるかに人が来る。

よくある質問

Q. 残った社員の負担が増えて、不満が出ないか。
A. 仕事をそのまま横滑りさせると、必ず不満が出ます。この記事で勧めているのは、抜けた仕事を「判断・手順・単純入力」に分解して、渡す先を選ぶことです。判断は経験のある人へ、手順はマニュアルと一緒に渡す。実際にこのやり方では残業は増えませんでした。もう一つ効くのは、浮いた原資の使い道を先に伝えることです。「1名分浮いたから賞与に回す」と「ただ減った」では、同じ事実でも受け取られ方が逆になります。
Q. うちはドライバーが主役の会社だ。運転は分解できないのに、この話は当てはまるのか。
A. 運転そのものは分解できません。でも、ドライバーに載っている仕事は運転だけではありません。日報の記入、請求書の処理、積み下ろしの前後作業、点呼記録——こうした「運転以外」は剥がして配り直せます。分解できない部分(運転)とできる部分(それ以外)を切り分けて、後者から手をつけてください。1人のドライバーが運転に集中できるだけで、実働時間の使い方が変わります。
Q. 浮いた1名分は、結局どうするのが正解か。
A. 決まった正解はありませんが、順番はあります。まず残った人の処遇(説明と、可能なら還元)。次に、いちばん属人化している業務の分解に、その原資で時間を買う。それでも余れば新しい仕事へ回す。最初に会社の利益へ入れてしまうと、次に欠員が出たとき誰も協力してくれなくなります。順番を守ることが、この打ち手を続けられるかどうかを決めます。

この記事の立場

本社の人事・総務で、欠員が出たチーム(正社員と派遣を含む計6名)を、補充せず業務分解で吸収し、5名体制で回した際の実体験からの整理です。正社員1名分の人件費が下がり、誰も辞めさせていません。得意の違うメンバーが、ある作業では自分よりはっきり速かったこと——それを、いまでも「配り方」を考えるときの基準にしています。

出典

※有効求人倍率は集計時点により前後します。(閲覧・確認日:2026-07-11)

人手不足の解決策として、いちばん地味で、いちばん確実なのがこれだと思っている。採用市場で戦わない。いまいる人の得意を、仕事の分解で活かす。得意の違うメンバーが、ある作業で自分より速かったことを、いまでも配り方を考えるときの基準にしている。それだけの話を、この記事では書いた。

()|著者:りゅうた(物流のプライム上場を含む上場企業2社で10年以上、主に人事・労務・総務。福岡で中小企業の業務改革を研究中。)
現場の話の続きは、noteでも書いています → りゅうた@中小企業の業務改革

この記事は「ドライバーの賃金・採用・評価」シリーズの一部です(全5本)