業務効率化で時間はどれくらい減るのか——議事録1本に、8,000円
「1人あたり、どれくらい時間が減るのか」と聞かれたら、私は議事録の話をする。新人時代の私は、1時間半の会議の議事録に半日——約4時間かけていた。時給2,000円で換算すれば、議事録1本8,000円。時間が消えていた正体は、書く作業ではなく「その会社でしか通じない言葉」の解読で、そこは今、仕組みで消せるようになった。
セミナーや相談の場で、決まって出てくる質問がある。「実際のところ、1人あたり、どれくらい時間が減るんですか」。正直に言うと、この質問に一般論で答えるのは難しい。会社ごとに業務が違いすぎるからだ。だから私は、一般論をやめて、自分の実測を話すことにしている。
社会人1〜2年目の頃、議事録は私の仕事だった。1時間〜1時間半の労使の会議を録音して、席に戻って、ボイスレコーダーを何度も巻き戻す。「この単語、なんだ」。ネットで検索しても出てこない。文字にして、形を整えて、上司に出して、直されて戻ってくる——気づけば半日、約4時間が消えていた。時給2,000円換算で、議事録1本8,000円。2,500円なら1万円。当時は笑えなかったし、今思い返しても笑えない。
なぜ議事録に4時間かかるのか——用語は「会社の前提条件」だから
検索しても出てこなかった理由は、あとになって分かった。会議で飛び交う言葉は、日本語ではなく「その会社の前提条件」なのだ。労使の会議なら、労働時間・勤怠の仕組み・これまでの労使の経緯。安全の委員会なら、過去の事故例と、法令改正にどう対応してきたかの積み重ね。会社の文脈を知らない新人には、聞き取れても意味が取れない。
つまり、議事録の4時間の正体は「書く時間」ではない。会社の暗黙知を、新人が独力で解読する時間だ。そして議事録の目的から考えると、この4時間はもっと重い。議事録は、欠席した人が頭から読んで「誰が何を発言し、何が決まり、次回までに誰が何をするか」が分かるための文書だ。会社の記憶を残す仕事を、いちばん会社の記憶を持っていない人が担当する——多くの会社が、この逆立ちした構造のまま回っている。
「まとめる」に付加価値はない——月次資料で気づいたこと
同じ構造は、議事録の外にもあった。入社した頃の私は、システムから明細を落として、表計算のSUMと割り算で前年比・前月比を出して、売上やミス・事故の発生を月次資料にまとめていた。それなりに時間をかけて、それなりの達成感もあった。
でも冷静に考えると、資料を「まとめる」こと自体に、目的はなかった。価値があるのは、まとまった数字を見て何を読み取るか、その分析に対して打ち手をどうするか——そこから先だけだ。取りまとめに私が費やしていた時間は、人間の判断を何も生んでいなかった。これに気づくまでに、恥ずかしながら時間がかかった。毎月やっている仕事には、目的を問い直す機会がないからだ。
メールも同じだった。新人の頃、顧客へのお礼や定型の連絡に30分かけて、直されて、また悩んで——1本1,000円の計算になる。議事録・資料・メール。三つに共通するのは、前提知識の解読と、判断を伴わない取りまとめに、新人の時間が消えていくという構造だ。
その時間は、いま仕組みで消せる
この構造が、ここ数年で変わった。録音の文字起こしは、いまはほぼ完璧にできる。会社の資料や過去のやりとりを読み込ませておけば、「その会社の前提条件」の解読——新人が4時間かけていた部分——を、道具の側が肩代わりできるようになった。議事録なら、要約と決定事項の整理、次のアクションの洗い出しまで自動で出す仕組みが組める。月次資料なら、取りまとめは自動に任せ、人間は読み取りと打ち手だけをやればいい。
ただし、正直に書いておきたいことが二つある。一つ、いきなり全部はできない。会社の前提を読み込ませる整理——どの資料を、どんな形で持たせるか——には段階があり、道具を買った日に4時間がゼロになるわけではない。二つ、最後に残るのは判断だ。仕組みは「パターンA・B・C、理由はこれ」までは出せるが、選ぶのも、選んだ結果の責任を取るのも人間のままだ。むしろ、そこだけが人間の仕事として残るように業務を組み直すのが、本当の時間削減だと考えている。
この「どの仕事を仕組みに渡し、どの判断を人に残すか」の切り分けは、業務分解の考え方そのものだ。道具の選定より先に、仕事を分ける。順番が逆だと、複雑な業務が複雑なまま自動化されて、誰も説明できない仕組みがもう一つ増える。
運送・建設の事務に翻訳すれば、同じ構造の仕事はすぐ見つかる。安全会議や点呼の記録、荷主との打ち合わせメモ、手書きの日報から月次への転記——「その会社の前提条件」の解読に新人の時間が消えていく構造は、業種が変わっても同じで、消えている場所の名前だけが違う。
月曜の朝にやること
- 次の会議を1本選び、録音して文字にしてみる。道具は無料のもので構わない。
- これまで議事録にかかっていた時間と、今回かかった時間を数える。それが「自社の実測」の1つ目だ。
- 新人か若手に聞いてみる。「毎月の仕事で、いちばん時間を取られているものは何か」。議事録・メール・資料のどれかが返ってきたら、この記事の構造がその会社にもある。
「どれくらい減るのか」への本当の答えは、一般論の目安ではなく、自社の実測から始まる。1つ測れば、2つ目からは計算できる。
よくある質問
- Q. 会議の議事録作成には、どれくらい時間がかかるものか。
- A. 筆者が社会人1〜2年目の頃は、1時間〜1時間半の会議で半日、約4時間かかっていました。録音の聞き直し、分からない用語調べ、体裁の整え、上司の差し戻しまで含めた実測です。時間の大半は書く作業ではなく、会議で飛び交う「その会社でしか通じない言葉」の解読に消えていました。
- Q. 文字起こしのツールを入れれば、議事録は終わるのか。
- A. 文字起こし自体はほぼ終わります。ただ、議事録の目的は文字にすることではなく、欠席者が読んで「誰が何を決めて、次に何をするか」が分かることです。そこまで自動で出すには、会社の前提(過去の経緯・固有の用語)を読み込ませる設計が要ります。道具の購入と、仕組みの設計は別の仕事です。
- Q. 会議が少ない小さな会社でも、効果はあるのか。
- A. あります。議事録は例のひとつで、同じ構造——前提知識の解読に新人の時間が消える——は、メールの下書き、月次資料の取りまとめ、引き継ぎ書にもそのまま当てはまります。会議が月に数回でも、メールと資料は毎日あります。
- Q. 業務効率化は、何から始めればいいのか。
- A. スマートフォンを初めて持ったときと同じで、「まず電源を入れて、触ってみる」が答えだと考えています。最初の1回は、次の会議を録音して文字にしてみるだけでいい。それで「自社の場合は何分縮むか」の実測が1つ手に入ります。目安の一般論より、自社の実測1つのほうが、次の判断に使えます。
この記事の立場
物流の会社で、主に人事の側から現場を見てきた経験からの整理です。本文の時間と金額(議事録4時間・8,000円、メール1本1,000円)は、世の中の平均値ではなく筆者自身の新人時代の実測で、時給換算の前提(2,000円)も本文に明示しています。目安として引用するより、同じ測り方で自社の数字を1つ測ることを勧めます。給与や手当のように「説明できないまま増築された仕組み」の話は、別の記事に書きました。時間の話とお金の話は、同じ構造をしています。
「どれくらい減るのか」と聞く社長は、たいてい数字を疑っているのではなく、最初の一歩の置き場所を探している。だから私は目安を言う代わりに、新人時代の8,000円の話をして、「まず1本、測ってみませんか」と返している。その記録として、この記事を書いた。