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運送会社のシステム化は、なぜ失敗するのか——導入を先延ばしにしている間も人件費は出ていく

「高い」「人がいない」「まだ早い」の3つに、順に答える

この記事は、運送会社のシステム化が止まる3つの理由に、順に答えたものだ。3つはどれも正しい。ただ、導入を先延ばしにしている間も、人件費は出ていき続けている。値段は月いくらからか、詳しい社員がいなくても回る形はどう作るか、先延ばしにしている間に人件費が年いくら出ていくか、最初の半日で何をするか。この4つを順に書いた。下の目次から、気になるところへ飛んでほしい。

システムの話を持ち出すと、社長から返ってくる言葉は、だいたい3つに集まる。「システムは高いし、導入コンサルにも払えない」「使いこなせる人材がいない」「うちはまだ、その段階じゃない」。システム化が途中で止まるのも、たいていこの3つのどれかだ。システムの利用料には、毎月請求書が来る。先延ばしで出ていき続ける人件費には、請求書が来ない。だから費用として気づかれない。1人あたり月300円から使える道具が実際にあり、使いこなす人がいなくても回る形は作れて、最初に要るのは半日と紙1枚だ。順番に書いていく。

「システムは高い」——借りるなら、10人で月3,000円から

月額で借りるシステム(サブスク)と、作ってもらうシステム(オーダー)は別物だ。値段の桁も、失敗の仕方も違う。見積書に数百万円、ときに数千万円と書いてあるのを見て「高い」と感じるのは当然だが、その金額はたいていオーダーの値段で、サブスクを利用する場合は桁が変わる。

では、サブスクはいくらか。ここに挙げるのは、主要なサービスの公開価格だ。特定の製品を勧める意図はない。いくらで、何が減るのかの相場を知るために使ってほしい。

公表されている価格の例(2026年8月時点)
  • 勤怠の管理:全機能が使えて1人あたり月300円、初期費用なし、30日間の無料体験つき(KING OF TIMEの公表価格)。10人なら月3,000円
    → 消えるもの:打刻の集計と残業時間の管理が機能として用意されていて、給与計算ソフトへの連携もある。タイムカードを電卓で足す月末の作業がなくなる方向に効く
  • 日報・点検表・申請を自社の形で作る:1ユーザーあたり月1,000円(税抜・最小10ユーザー・初期費用0円)から(kintoneライトコースの公表価格)。10人なら月10,000円
    → 消えるもの:公式の用途例に日報・報告書・ワークフローが挙がっている。紙で受け取って事務が打ち直していた工程を、入力そのものを現場に移してなくす方向に使える

10人の会社で、月3,000円から1万円台。パートの方に1日から2日お願いする金額と、だいたい同じだ。これが「高い」かどうかは、次に書く「しない場合の金額」と並べて決めればいい。少なくとも、決裁に半年かける桁ではない。

そして、賃上げとあわせて設備投資をすると、その費用の一部が戻る制度が国にある。業務改善助成金という。秋の最低賃金の改定で、どのみち何人かの時給を上げなければならない会社なら、発効日より前に前倒しで引き上げ、設備は交付決定を受けたあとに入れる——この順序を守れば、前から入れたかったものをこの制度でまかなう組み立てができる。発効日の当日に上げたのでは対象外になる(業務改善助成金で、運送会社は何ができて、何ができないのか)。誰をいくら上げるかの配分は、別に書いた(最低賃金の引き上げに、運送会社はどう対応するか)。

「導入コンサルにも払えない」のほうも、順番を変えれば片づく。最初の半日は、自分たちでできる。やり方は後ろに書いた。外の人に頼むかどうかは、その半日で出てきた紙を見てから決めれば遅くない。

「使いこなせる人材がいない」——詳しい社員なしで導入する方法

導入する人と、日々使う人は、別でいい。導入する人は、何を入れるかを決めて設定する役。日々使う人は、決まった画面に入力するだけの役だ。決めて今のやり方から移し替える力が要るのは最初の期間だけで、しかも一度きりになる。動き出した後に現場がやることは、決まった画面を開いて打つ、それだけの形に絞れる。例えば、手書きの日報を事務の担当が打ち直している会社は多い。そこに道具を入れるなら、ドライバーがその場で選んで送り、受け取る側は確認するだけに回る。新しく覚えることは、増えるというより入れ替わる。

その形にするために、最初に決めておくものが3つある。

  1. 手順書。画面をこの順で押す、という写真か動画だけでいい
  2. よくある質問。実際に出た質問を、出た順に足していく
  3. 迷ったときに誰へ聞くか。社内の1人と、サービス提供元の窓口を書いておく

この3つがないまま道具だけ入れると、詳しい人ひとりに質問が集中して、その人が休んだ日に止まる。逆に3つがあれば、教える人がいない日でも動く。つまり、人材の問題に見えて、実は設計の問題だ。

「教えてもわからない」は、たいてい手順の側の問題だった

新しく入った社員に、点呼記録の入力や日報の打ち直しを教えて、「教えてもわからない」とこぼす——運送会社でよく聞く場面だ。私は、たいてい逆だと思っている。手順が分けられていないから、教えても伝わらない。覚えられないのではなく、渡せる形になっていない。請求書と運賃の突合も、同じ形をしている。

同じことを、前にいた会社でも見た。社会保険の手続きを新しく入った方に覚えてもらう場面で、何度か耳にしたのが「教えてもわからない」という言い方だ。私はその場にいて、逆ではないかと思っていた。書いたものがあれば済む仕事なのに、誰も作っていなかった。

作らない理由も、当時の私にはよく分かった。手順書を作る時間など、どこにもない。あるとき上司にそう言ったら、こう返ってきた。「教えながら字を打っていけばいいんじゃないの」。目からうろこだった。別作業として机に向かうのではなく、誰かに教えるその場で、画面を写しながら順番を残していく。それだけで、次の人に渡せるものになる。手順書は、そうやって作るのがいちばん安い。

教える人が付きっきりになっている作業ほど、手順書にすれば渡せる。そして渡せる形になったものは、そのまま道具に載せられる。順番は、道具が先ではない。

「まだ、その段階じゃない」——人件費は、気づかないうちに出ていく

先延ばしにしている間も人件費は出ていて、しかもその支出には請求書が来ない。3つめの「まだ、その段階じゃない」は、いちばん強い言葉だ。今日の配車が埋まっていない会社に、来年のための話をしても順番が違う。それはそのとおりだと思う。

ただ、その支出は誰かの時間として出ていくので、決算書のどこにも「打ち直し代」という科目では載らない。だから、自分で計算するしかない。出し方は簡単で、1日あたりの時間 × 年間の稼働日 × 時給を掛けるだけだ。

架空の会社での試算(数字はすべて仮定値)
  • 事務の方が、手書きの日報をシステムに打ち直すのに1日30分かかっているとする
  • 年間250日なら、年125時間
  • 時給1,200円で計算すると、年間15万円

※実在の会社の数字ではありません。自社の時間と時給を入れて計算し直してください。

1日30分は、忙しさの中では気にならない量だ。それが年15万円になる。点呼記録の入力にも、請求書の突合にも、同じ計算を当てはめれば、合計はもう少し上に行く。これが、月3,000円の見積書と並べる相手になる。並べたうえで「今年は見送る」と決めるなら、それは立派な判断だ。並べないまま先送りすると、判断したつもりで毎年払い続けることになる。

人が辞めたときも同じで、採って教え直す時間や、回らない分を協力会社に出す費用が実際に出ている。ただ「離職のコスト」という名前が付いていないだけだ。その中身は助成金の記事のほうに書いた。

システム化の最初の一歩:半日と紙1枚でできること

外に頼む前に、自分たちでできることがある。かかるのは半日と、紙とペンだけだ。

  1. 1つの仕事を選ぶ。事務の1週間でも、月末の請求書まわりでもいい。全部やろうとしない
  2. やっている作業を、順番に紙へ書き出す。「日報を受け取る」「システムに打ち直す」「間違いを本人に聞く」というくらいの粒でいい
  3. それぞれに、かかっている時間を書く。正確でなくていい。感覚の数字で足りる
  4. 判断が要るものに丸をつける。丸が付かなかった行が、道具に渡せる候補になる
  5. 丸の付かない行でいちばん時間が長いものを1つ選び、年いくらかを計算して、無料体験を申し込む

正直に書いておくと、私は20代の後半に「この部署の業務が月にどれくらいあって、どれくらい時間がかかるか書き出してほしい」と頼まれて、書けなかったことがある。全部を一度に書こうとしたからだ。1つの仕事に絞れば、半日で紙は埋まる。書き出し方をもう少し細かく知りたい場合は、手順だけをまとめた記事がある(「分けろ」と言われても、どう分けるか)。

以前、県の無料相談の窓口で、AIやシステムを仕事に使う話をしたら、「それ、Google検索と何が違うんですか」と聞かれたことがある。私の答えはこうだ。調べるだけなら、確かに検索と変わらない。変わるのは、自社の作業を紙に書き出して、道具に任せる作業と人が判断する作業に分けたときだ。この1枚があれば、業者の見積書を見たときも「この提案は、うちのどの作業を減らすのか」を自分で確かめられる。紙が無ければ、見積書の言葉に乗るしかない。

月曜の朝にやること

  1. 紙を1枚用意して、いちばん時間を食っている仕事を1つ書く。
  2. その仕事の作業を、順番に書き出して、時間を入れる。半日で終わる。
  3. いちばん長い行を「1日の時間×年間の稼働日×時給」で計算して、無料体験を1つ申し込む。今月はそこまででいい。

この3つに、お金はかからない。かかるのは半日だけだ。

よくある質問

Q. 10人くらいの会社でも、いくらから始められますか?
A. 月数千円から始められます。たとえば勤怠管理のクラウドサービスには、全機能が使えて1人あたり月300円(税抜)、初期費用なし、30日間の無料体験つきという公開価格のものがあります(KING OF TIMEの公表価格・2026年8月時点)。10人なら月3,000円です。日報や点検表を自社の形で作れる業務アプリのサービスも、公開価格は1ユーザーあたり月1,000円(税抜・最小10ユーザー・初期費用0円)からあります(kintoneライトコースの公表価格・同時点)。見積もりが数百万円になるのは自社専用に作ってもらう場合で、既製のものを借りる場合は桁が変わります。まず無料体験で1つ試すところからで足ります。
Q. パソコンが苦手な社員しかいなくても、システムは入れられますか?
A. 入れられます。使いこなす力が必要なのは、何を入れるかを決めて今のやり方から移し替える最初の期間だけで、しかも一度きりです。動き出した後に現場がやることは、決まった画面を開いて打つことに絞れます。そのために最初にやるのは、手順書と、よくある質問と、迷ったときに誰へ聞くかの3つを決めておくことです。この3つがあれば、教える人がいない日でも止まりません。逆に、これを作らずに道具だけ入れると、詳しい人ひとりに質問が集中して、その人が休んだ日に止まります。手順書は別作業として作らず、誰かに教えるときに画面を写しながらそのまま残すのが早いです。
Q. システム化しないままだと、どれくらい損をしているのですか?
A. 自社の数字でしか出せませんが、出し方は簡単です。1つの作業について「1日あたりの時間×年間の稼働日×時給」を掛けるだけです。たとえば、事務の方が手書きの日報を打ち直すのに1日30分かかっているとすると、年間250日で125時間、時給1,200円で計算すれば年15万円になります(架空の会社での試算・仮定値)。これは請求書の来ない支出なので、費用として気づかれないまま毎年出ていきます。同じ計算を、点呼記録の入力や請求書の突合にも当てはめてみてください。合計が、見積書の金額と並べる相手になります。

この記事の立場

物流の会社で、主に人事の側から現場を見てきた経験からの整理です。本文に挙げたサービスの価格と機能は、各社が公表している内容を2026年8月時点で確認したもので、特定の製品を推奨するものではありません。値段の桁と、消える作業の見当をつけるための例として挙げています。税の表記や最小契約数、最新のプラン内容は各社の公式ページでご確認ください。

年15万円の試算は架空の会社の仮定値で、実在する会社の数字ではありません。計算の前提(1日30分・年250日・時給1,200円)は本文に明示しています。助成金に関する記述は2026年度(令和8年度)時点のもので、制度は年度ごとに変わります。この記事は考え方と順番の整理であり、助成金の申請代行は行っていません。制度の対象や期限は、厚生労働省の資料と管轄の都道府県労働局でご確認ください。

出典

  • KING OF TIME 公式サイト(すべての機能が使えて1人あたり月300円・初期費用なし・30日間無料体験/残業時間の管理・有休管理・各種給与計算ソフトとの連携)KING OF TIME
  • kintone 料金プラン(ライトコース 1ユーザー月1,000円・税抜/最小契約10ユーザー/初期費用0円)kintone 料金プラン/用途例(日報・報告書・ワークフロー)kintone 公式サイト
  • 厚生労働省「業務改善助成金」(事業場内最低賃金の引上げとあわせた設備投資などへの助成・制度概要・交付要綱)厚生労働省 業務改善助成金

システム化が失敗するのは、たいてい道具のせいではない。値段の桁を勘違いしたまま、詳しい人がいないまま、そして「しない場合の金額」を数えないまま止まる。逆に言えば、その3つは今日の午後にでも埋められる。まずは紙1枚から。その記録として、ここに置いておく。