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熱中症対策が義務になった——現場で作るのは、紙2枚だけ

2025年6月から義務化・罰則あり。運送・建設の現場でやることを順番に

熱中症対策の義務化とは、2025年6月から、体調が悪くなったときに報告する先を決めて作業者に知らせることと、熱中症の疑いが出たあとの対応手順を決めて知らせることの2つを、労働安全衛生規則第612条の2が会社に義務づけたことをいう。罰則もあるが、設備を買えとも、暑い日は作業をやめろとも書かれていない。この記事では、対象になる条件と、今週作る2枚の紙の中身を整理した。

  1. 体調が悪くなったときに報告する先を決めて、作業者に知らせる(悪くなった本人も、他の人の異変に気づいた人も、そこに言う)
  2. 熱中症の疑いが出たあとに何をするかの手順を決めて、作業者に知らせる(作業から離す、身体を冷やす、必要なら医師に診せる、緊急連絡先)

この記事で分かること

  • 自社の作業がいつ義務の対象になるか(31度と1時間の数え方)
  • 現場の暑さをどうやって知るか(測る/見る/気温で判断する)
  • 2枚の紙に何を書くかと、運送・建設それぞれの落とし穴

以下はすべて2026年8月時点の国の資料に基づく。

自社の現場は該当するか:31度と1時間の数え方

義務がかかるのは「熱中症を生ずるおそれのある作業」を行うときだ。施行通達(基発0520第6号)が、これを数字で定義している。この省令を補うかたちで、2026年3月18日に「職場における熱中症防止のためのガイドライン」も策定された(基発0318第1号)。省令が最低限の義務、ガイドラインが「望ましい具体的方法」だ。

対象になる作業の条件(2つを掛け合わせる)

【場所】暑さ指数(WBGT)が28度以上、または気温が31度以上

【時間】その場所で継続して1時間以上、または1日あたり合計4時間超行われることが見込まれる

場所の条件は「または」だ。暑さ指数を測っていなくても、気温31度で判断できる。温度計は現場にある。

時間のほうも、思ったより緩い網になっている。継続1時間で当たるし、当たらなくても1日の合計が4時間を超えれば当たる。

暑さ指数(WBGT)とは、気温だけでなく湿度と日射・輻射熱を組み込んで、暑さによる身体への負担を1つの数字にした指標である。単位は気温と同じ「度」で表示されるが、気温そのものではない。

現場の暑さ指数を知る方法は3つある(実測・環境省サイト・気温)

該当するかどうかを判断する手段は、3つある。順に難易度が下がる。

①現場で実測する。WBGT指数計は市販されている。ガイドラインは、日本産業規格(JIS Z 8504またはJIS B 7922)に適合したものを準備し、点検することとしている。買うなら、黒球が付いているかを見ればいい。

②環境省のサイトで見る。環境省の熱中症予防情報サイト(www.wbgt.env.go.jp)で、全国の観測地点の暑さ指数の実況値と予測値が公開されている。暑さ指数のメール配信サービスも無料で、予測値は毎日午前7時に届く。朝の点呼前に届く設計なので、運行管理者や職長のアドレスを登録しておくと、判断の材料が向こうから来る。

③気温で判断する。31度以上なら条件を満たす。

運送と建設では、引っかかる場所が違う(移動時・混在作業)

同じ条文だが、当たる場所が業種で違う。通達の2つの一文が効いてくる。

運送業:義務は「移動時」まで伸びている

通達は、対象となる「暑熱な場所」について、必ずしも事業場内外の特定の作業場のみを指すものではなく、出張先で作業を行う場合、労働者が移動して複数の場所で作業を行う場合や、作業場所から作業場所への移動時等も含む趣旨だ、と書いている。

運送業で本当に危ないのは運転していない時間だ。厚生労働省が2026年5月に公表した確定値にある、2025年の死亡災害19件の一つがこれだ。

50歳代の男性が、17時30分頃からガソリンスタンドで、タンクローリーに積載していた燃料油を地下タンクへ移送していた。20時頃、スタンドの従業員が確認したところ、タンクローリーの上で倒れており、救急車の到着時には既に死亡していた。当日の気温33.6度、WBGT値29.2度。
運送で見落とされやすい「運転していない時間」
  • 積み下ろし:身体作業の強度が高く、冷房から離れる。上の死亡事例もここ
  • 荷待ち:エンジンを切って待つ間の車内(拘束時間の数え方はこちら)
  • 移動時:通達が「移動時等も含む趣旨」と明記している
  • 退勤後:ガイドラインは管理者の業務に「退勤後に体調が悪化しうることについて注意喚起すること」を挙げている

建設業:元請だけの義務ではない

通達は、第612条の2にいう「当該作業に従事する者」を、労働者だけでなく労働者と同一の場所において当該作業に従事する労働者以外の者を含むとしている(一人親方も同じ現場にいれば入る)。そのうえで、混在作業で措置が行われていなかった場合、元方事業者のみに違反が生ずる訳ではなく、当該作業場に関わる全ての事業者に同条違反が生ずるとしている。

「元請がやってくれているはず」は成り立たない。連絡先は共同で、周知は各社で、という形になる(建設と物流に同じ力学がかかる話はこちら)。

今週作る1枚目の紙:熱中症の報告を誰が受けるか

1枚目に書くことは、3つだけだ。

  1. 報告を受ける人の名前と連絡先(現場責任者・運行管理者など。携帯番号まで書く)
  2. 連絡方法(電話、無線、アプリなど。作業中いつでも通じる手段にする)
  3. 報告するのはどんなときか(自分がふらつく・気分が悪い/他の人の様子がおかしい、の両方)

通達は、報告体制の整備とは「報告を受ける者の連絡先及び当該者への連絡方法を定め、かつ明示することにより、作業者が作業を行っている間、随時報告を受けることができる状態を保つこと」だと説明している。早期発見の方法として、巡視やバディ制、ウェアラブルデバイスによる管理なども挙げられている。

周知の方法は、事業場の見やすい箇所への掲示、メールの送付、文書の配布、朝礼での口頭のいずれでも原則として差し支えない。ドライバーのように朝礼に全員が揃わない職場は、掲示だけでは足りないということだ。

今週作る2枚目の紙:離脱・冷却・搬送までの手順

2枚目は、報告を受けたあとの手順だ。条文が名指ししている要素は3つ。作業からの離脱/身体の冷却/必要に応じて医師の診察または処置を受けさせること。これに緊急連絡先を足す。

身体の冷却について、通達は具体例を挙げている。作業着を脱がせて水をかける、アイスバスに入れる、十分に涼しい休憩所に避難させる、ミストファンを当てるといった体外からの冷却と、アイススラリー(流動性の氷状飲料)を摂取させるといった体内からの冷却。そして「熱中症を生じたおそれがある作業者を一人きりにすることなく、他の作業者等が見守ること」。

手順に入れておくと効くものが、もう2つある。1つは「本人が大丈夫と言っても止める」という一行だ。ガイドラインが明記している対応で、周囲は本人の「大丈夫」をそのまま受け取らず、あらかじめ定めた担当者に連絡することを求めている。もう1つは「帰ったあと」だ。熱中症は帰宅後も症状が悪化することがあるため、退勤時にひと言かけるだけで手順の半分は動く。

2枚の紙と一緒にやっておくと、抜けが減ること

  • 塩を置く。労働安全衛生規則第617条は、多量の発汗を伴う作業場に「塩及び飲料水」を備えることを事業者に義務づけている。ガイドラインは、飲料水・スポーツドリンク・経口補水液・塩飴等を備え付けること、としている
  • 教える。2025年の死亡災害19件のうち、熱中症予防のための労働衛生教育の実施を確認できなかった事例が9件あった。教材は厚生労働省のポータルサイトにある
  • 休み明けを別扱いにする。ガイドラインは、暑さに体を慣らす暑熱順化について「熱へのばく露が中断すると4日後には顕著な喪失が始まり、3〜4週間後には完全に失われる」としている。お盆明けや長期休み明けの人は、慣れていない人と同じ扱いになる

守らなかったときに何があるか(罰則と記録)

第612条の2は労働安全衛生法第22条に基づく規定で、同法第119条第1号により違反した場合は6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金と定められている(狙いは処罰ではなく重篤化の防止)。記録の保存までは法令では求めていないが、労働基準監督署の確認に事業者として対応できるよう、掲示した紙の写真を1枚撮って日付とともに残しておけば足りる。

なぜ今なのか:2025年、猛暑日は10日を超えた

「昔は根性で乗り切った」と言う人がいる。これは嘘ではないと思う。実際に乗り切ってきた経験を否定する理由はない。ただ、条件が変わっている。

気象庁が公表している全国13地点平均のデータで、猛暑日(日最高気温35度以上)の年間日数を見る。いまの社長——50代・60代——が小学生だった1970年代後半から80年代、猛暑日は年平均0.9日だった。年に1日あるかないか、である。直近10年(2016〜2025年)の平均は5.3日で、5倍以上。2025年は10.2日と、1910年の統計開始以降でもっとも多かった。厚生労働省も、2025年夏の平均気温の偏差がプラス2.36度と統計開始以来最高だったことを、災害増加の一因に挙げている。

数字のほうも動いた。2025年の職場の熱中症による死傷者は1,803人で、統計を取り始めた2005年以降で最多。業種別では建設業292人、運送業220人。一方で死亡者は19人と前年より約39%減っており、厚生労働省は省令改正で重篤化防止対策が進んだことを一因と見ている。倒れる人は増え、亡くなる人は減った。

個人的な話を1つだけ書く。2026年の夏、自転車を漕いでいて寝込んだ。仕事ではない。水は飲んでいた。風もあった。塩分は取っていなかった。医師に診てもらったわけではないので原因は自分で決めつけないが、あとから第617条を読んで、法律が50年以上前から「塩及び飲料水」と書いていたことを知った。私は水のことしか考えていなかった。

体を鍛え抜いているスポーツ選手でも、夏は体調を崩す。体力や根性の問題ではない、ということだ。

どこに相談すればいいか

よくある質問

Q. うちの作業は、熱中症対策の義務の対象になりますか?
A. 暑さ指数(WBGT)が28度以上、または気温が31度以上の場所で、継続して1時間以上、または1日あたり4時間を超えて行われることが見込まれる作業が対象です。どちらか一方に当たれば対象なので、暑さ指数を測っていなくても、気温31度で判断できます。施行通達は、この「暑熱な場所」は事業場内外の特定の作業場だけを指すのではなく、出張先での作業、移動して複数の場所で作業を行う場合、作業場所から作業場所への移動時なども含む趣旨だとしています。荷主の構内での積み下ろしや、現場から現場への移動も入ります。非定常作業や臨時の作業でも、条件を満たすことが見込まれれば対象です。
Q. 具体的に何を作れば、義務を果たしたことになりますか?
A. 2つです。1つは、体調が悪くなった人や、他の人の異変に気づいた人が報告する先を決めて、その連絡先と連絡方法を作業者に周知すること。もう1つは、作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じて医師の診察または処置を受けさせることなど、症状の悪化を防ぐための措置の内容と手順を作業場ごとに定めて、これも作業者に周知することです。周知の方法は、事業場の見やすい箇所への掲示、メールの送付、文書の配布、朝礼での口頭のいずれでも原則として差し支えないとされています。厚生労働省の施行通達には掲示例と手順例が添付されていますが、自社の作業実態に合わせて独自に定めても構いません。設備の購入や作業の中止は、この条文の義務には含まれていません。
Q. 罰則はありますか。記録は残さないといけませんか?
A. 罰則はあります。労働安全衛生規則第612条の2は労働安全衛生法第22条に基づくもので、同法第119条第1号により、違反した場合は6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金と定められています。ただし規定の主な目的は処罰ではなく重篤化の防止で、厚生労働省は改正の趣旨として、熱中症による死亡災害の原因の多くが初期症状の放置と対応の遅れによることを挙げています。記録については、周知した結果の記録の保存までは法令では求めていないが、労働基準監督署による確認に際しては事業者として適切に対応することが求められる、と通達に書かれています。義務ではないが、無いと説明ができない、という位置づけです。
Q. 本人が「大丈夫」と言った場合も、対応や報告を続けるべきですか?
A. はい。ガイドラインは、周囲の作業者等は本人に自覚症状がない、又は大丈夫との本人からの申出があったとしてもためらわずにあらかじめ定められた担当者に連絡すること、としています。判断に迷う場合は放置や先送りをせず、#7119などで専門機関や医療機関に相談することが望ましいともされています。ベテランほど「大丈夫だ」と言うのは現場の実感どおりですが、制度の側も同じことを想定しています。
Q. 退勤後に体調が悪化した場合はどうすればいいですか?
A. 通達は、熱中症は帰宅後も含め時間が経ってから症状が悪化することがあるため、事業場における回復の判断は慎重に行うことが重要だとしています。体調急変時の連絡体制(本人や家族が救急搬送を要請する、事業者側から様子を伺う連絡を取る等)をあらかじめ定めておくことが重要だ、ともしています。退勤時にひと言かけるだけで、手順の半分は動きます。

この記事の立場

この記事は、条文と通達とガイドラインを読んで、社長が実際に作る順番に並べ直したものである。読んでいていちばん驚いたのは第617条だった。多量の発汗を伴う作業場に「塩及び飲料水」を備えよ、という条文が1972年から置かれている。私は水のことしか考えていなかった。50年以上前の条文のほうが、2026年の私より正確だったということになる。

本文の条文・数値・引用は、e-Gov法令検索、厚生労働省の施行通達(基発0520第6号)とガイドライン(基発0318第1号)、令和7年確定値、環境省、気象庁の一次資料で確認しています(出典一覧は後述)。いずれも2026年8月時点のもので、制度は改正されます。

私は医師ではありません。個人の体調や作業の可否、基礎疾患のある人の配置については、産業医・主治医の判断によってください。自社の作業が義務の対象になるか、手順の内容が十分かは作業の実態によって変わります。管轄の労働基準監督署または産業保健総合支援センターに確認してください。

出典(国の一次資料)

この条文を読んでいて、ひとつ腑に落ちたことがある。国は現場から夏を取り上げようとしていない。取り上げようがないことを、書いた側も分かっているのだと思う。だから代わりに求めたのが、誰に言うかと、そのあと何をするかの2つだった。暑いかどうかを人の感覚で決めるのをやめて、止める役を誰かに渡しておく。私は自分の体調すら読み違えた。読み違えることを前提に組んである制度のほうが、たぶん正しい。

()|著者:りゅうた(物流のプライム上場を含む上場企業2社で10年以上、主に人事・労務・総務。福岡で中小企業の業務改革を研究中。)
現場の話の続きは、noteでも書いています → りゅうた@中小企業の業務改革