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いい会社なのに応募が来ない——いい会社だと分かる場所が、どこにもないだけかもしれない

この記事は、求人票を直したあと何を出せばいいのかを、1枚の表にまとめたものだ。運送会社の求人に応募が来ないとき、原因が求人票の外にあることがある。応募者が会社を確かめる場所が、どこにもない状態だ。ここでは求人票を直すことをステップ1、その次に出すものをステップ2として順に書く。

いい会社なのに応募が来ない。そういうとき、足りないのは会社の中身ではなく、いい会社だと分かる場所のほうかもしれない。分かる場所は、あとから作れる。求人票とA4一枚から始められる。

応募が来ない理由は、2つに分かれる

応募が来ない理由は、中身が足りないときと、中身はあるのに外から見えないときの2つに分かれる。前者は処遇や働き方そのものを変えることになり、時間もお金もかかる。後者は、いま手元にある事実を出すだけで済む。だから先に確かめたいのは後者だ。

求職者は、あなたの会社の中を見られない。見えるのは求人票と、検索して出てくる数ページと、知り合いから聞いた話だけである。休みを増やすために配車を組み替えた何年かも、無理をして賞与を出した年も、そこには1行も載っていないことがある。社長の頭の中にある会社と、外から見える会社は、別の会社として存在している。

ステップ1:求人票を直す

最初にやることは求人票を直すことで、これは今日から手をつけられる。求人票は、応募者にとっての物件情報だ。1日の流れ、一緒に働く人の年齢、去年の年間休日の実数。ここが書いていないと、給与の額だけで他社と並べられる。何をどう直すかはドライバーが来ない求人票、来る求人票に書いた。

直せば、たいてい反応は変わる。それでも、そこで終わりにはならない。求人票に書ける欄には限りがあるからだ。賃金の幅、仕事内容、手当。欄はこの数しかなく、書ける量も決まっている。会社を本当に確かめたい人は、そのあとに社名で検索する。そこで何も出てこなければ、確かめようがない。求人票を直すところまでは、多くの会社がたどり着く。応募が来る会社と来ない会社の差は、その先で開いていく。

ステップ2で、社長はたいてい詰まる

求人票を直した社長がつまずくのは、その次に何を出すかを決めるところだ。求人票の外に出すものを、ここでは開示と呼ぶ。採用でいう開示とは、自社の働き方や条件を、外の人が自分で確かめられる形にしておくことだ。

出す場所は、求人票・自社サイト・国の認定の3つで足りる。広報とも違う。広報はこちらが伝えたいことを伝え、開示は相手が確かめたいことを確かめられるようにする。「うちは社員を大事にしています」は広報で、「去年の年間休日は何日だったか」を数字で置くのが開示だ。

難しいのは、何を出すかを自分で思いつかないといけないところだ。給料と休みは出した。そのあと何を書けばいいのか。ゼロから考えろと言われて、すらすら出てくる社長はまずいない。思いつかないのは、社長の見落としではない。自分の会社の当たり前は、自分からがいちばん見えにくいからだ。だから、外にある一覧を借りてくる。

次に何を出すかのネタ帳は、国がもう作っている

何を出すかの一覧は、国がすでに作っている。経済産業省が2020年9月と2022年5月に出した人材版伊藤レポート(1.0・2.0)がそれにあたる。人を費用ではなく資本として扱う、という考え方を示した文書で、この数年の人事の議論はここが土台になっている。5つの要素が挙げられていて、これが会社の人まわりを一通り並べた一覧になっている。

もっとも、本文を検索すると「中小企業」も「中小」も0件だった。挙がっている事例は上場企業ばかりで、開示の議論も有価証券報告書を出す会社が前提になっている。国が上場企業に向けて書いた文書なのだから、それは当然のことだ。

だから、認定を取るために読むのではない。書くことのリストとして借りる。そう決めてしまえば、大企業向けの資料でも10人の会社の役に立つ。

5つの要素を、10〜30人の会社の実物に置き換える

5つの要素は、言葉を換えれば、小さい会社の現場でも毎日起きていることだ。左の列が原典の言葉、真ん中がその実物、右が外に出せることになる。真ん中と右は原典にはなく、こちらで訳した。

人材版伊藤レポートの5要素10〜30人の会社での実物開示のネタ帳(外に出せること)
①動的な人材ポートフォリオ
(将来の目標から逆算して必要な人材を定義し、獲得・育成する)
誰が辞めたら現場が止まるかの一覧と、その代わりを今から育てる計画があるか 1日の流れと、担当が抜けたときの代わりの立て方を求人票に書く/建設なら建設キャリアアップシステムに技能者の資格と就業履歴が残る
②知・経験のダイバーシティ&インクルージョン
(経験・感性・価値観・専門性の異なる人材を取り込む)
生え抜きだけでなく、他業界からの中途・女性・シニアを意図して混ぜているか 中途・女性・シニアが実際に何人いるかを書く/えるぼし・くるみん・トライくるみん(2022年4月新設の中間認定)
③リスキル・学び直し
(個人のスキルシフトと専門性の向上を促す)
ベテランのカンを、辞める前に手順と若手へ移す仕組みがあるか 資格取得に会社がいくら出すかを実額で書く/ユースエール(常時雇用300人以下の中小企業が対象)
④従業員エンゲージメント
(やりがいを感じ、主体的に働ける環境をつくる)
評価と手当の理由を、社長がいつも同じ言葉で説明できるか 評価の基準と給与の内訳を社内に出す/健康診断や健康づくりの取り組み(健康経営優良法人の要件が、その項目の一覧になっている)
⑤時間や場所にとらわれない働き方
(いつでもどこでも安全に働ける環境を整える)
現場は在宅にできない。シフト・雇用形態・休みの取り方に選択肢があるか 年間休日の実数と、シフトの選び方を書く/ホワイト物流推進運動(認定ではなく自主行動宣言)

右の列は、事実がもう社内にある。だから今日書ける。認定はその中の道具の一つで、第三者の物差しで裏づけたいときに使う。採用への効き目を国が公式に書いているのは、ユースエールとくるみんの2つだけだ。ほかは融資や公共調達での優遇が中心で、採用への効果は事業者側の説明にとどまる。制度ごとの費用と締切は、別の記事で一覧にする。

相手が誰かで、出す場所も中身も変わる。運送業のGマークは、応募者ではなく荷主に向けた開示だ。④の評価と手当は、社内ではもう決まっている事実なので、外に出す前にまず社内で説明できる形にしておく。評価はその会社も、評価はしている、手当は俺の手当、合ってるのかに書いた。

運送会社の求人は、まだ書き込まれていない

運送会社の求人は、IT企業の採用ページほど作り込まれていない。だから、書けば差が出やすい。

福岡県内の運送求人88件を、1件ずつ開いて賃金と手当の欄を書き写したことがある。分かったのは、書ける事実があるのに書いていない求人が珍しくない、ということだった。会社が悪いのではなく、書く場所と書くことが決まっていないだけに見えた。

他の業界の採用ページを開くと、社員の1日や、資格の費用や、入社後の3か月まで書いてあることが多い。同じことを運送会社がやっている例は、まだ少ない。少ないということは、やった会社が目立つということでもある。建設も同じだと見ている。

応募者は、応募する前に会社を調べている

いまの応募者は、求人票を読む前に会社を調べている。就職活動をしている学生の76.2%が、生成AIを使って情報を集めていた(2026年3月・419人への調査)。志望動機を書くためだけではない。どんな会社かを調べるために使っている。

会社の側から見れば、調べられる側になったということだ。検索してもAIに聞いても何も出てこない会社は、比べられる土俵に上がる前に消える。

物差しそのものも変わっている。男性の育休が1〜2週間から3か月へ、そして1年へと伸びていくのを、人事の側から見てきた。10年でそこまで動いた。社長の世代の当たり前と、いま応募してくる人の当たり前は、同じ言葉でも中身が違う。

健康経営に取り組んでいることが就職先の決め手になるか、という設問に、全体の60.4%が「なる」と答えている(2023年9月・900人)。就活生では64.8%、転職者でも51.7%だ。給料と休みの次に、こういうものが見られている。

開示しても埋まらないもの

開示で拾えるのは、来ていたのに逃していた応募までだ。そもそも人がいない地域や職種は、これでは動かない。賃金や採用は、自社だけで決められるものではない。名古屋では自動車産業に人を取られて、ドライバーが集まらない。同じ求人票を出しても、拠点が違えば結果が変わる。そこは処遇や、拠点をどこに置くかという判断になる。

出せばすぐ届く、というものでもない。経験のない仕事は、自分で試して経験に変えるしかない。そう考えて、いま自分でサイトを作り、どう書けば検索から人が来るのかを試している。分かってきたのは、置いてあるだけでは見つからない、ということだった。出したあと、見つけてもらえる場所に置き直す作業が要る。

それでも、順番としては開示が先に来る。処遇を上げるには原資が要り、原資を作るには時間がかかる。今日ある事実を出し切ってから足りない分を考えるほうが、遠回りが少ない。

月曜の朝にやること

月曜にやることは、自社に「分かる場所」があるかを3分で確かめることだ。次の3点でいい。

  1. 自社サイトを、応募者になったつもりで開く。働く場所と人数と休みが、そこから分かるか。
  2. 求人票を1枚、机に出す。1日の流れ、一緒に働く人の年齢、去年の年間休日の実数が書いてあるか確かめる。
  3. 外から見える印を、無料のところから1つ探す。福岡県の会社なら「ふくおか健康づくり団体・事業所宣言」がある。福岡県と協会けんぽ福岡支部の共同事業で、登録は無料だ。登録した事業所には、保健師や管理栄養士が無料で相談に乗る。

3つとも今日中に終わる。足りない場所が1つ見つかれば、それで十分だ。

よくある質問

Q. 認定を取れば、応募は増えるのか。
A. 認定そのものが応募を運んでくるわけではありません。国が採用への効果を公式に書いているのは、ユースエールとくるみんの2つです。ユースエールはハローワークでの重点PRと認定企業限定の面接会、くるみんは学生・社会一般へのイメージアップと採用・定着への効果が、厚生労働省のページに明記されています。それ以外の制度は、融資や公共調達での優遇が中心で、採用への効果は事業者側の説明にとどまり、公式ページの本文では確認できていません。認定は、求人票と自社サイトに書いて初めて応募者の目に触れます。取ることより、取ったことを出すほうが大事です。
Q. うちは10人の会社だが、開示することなど何かあるのか。
A. あります。開示は新しく何かを作る作業ではなく、すでにある事実を外から確かめられる形にする作業だからです。去年の年間休日が実際に何日だったか、いま何人の職場で上と下は何歳か、資格を取るときいくら会社が出しているか。この3つは今日の帳簿と名簿の中にあります。求人票に書けば開示になり、費用は1円もかかりません。大手のように統合報告書を作る必要はなく、出す場所は求人票・自社サイト・国の認定の3つで足ります。
Q. 人材版伊藤レポートは大企業向けの資料ではないのか。
A. そのとおりです。1.0(2020年9月)と2.0(2022年5月)の本文を検索しても「中小企業」「中小」という語は0件で、挙がっている事例も上場企業ばかりです。開示の議論も有価証券報告書を出す会社が前提になっています。ただし、示されている5つの要素そのものは規模に関係なく起きていることです。誰が辞めたら現場が止まるか、ベテランのカンを誰に移すか、評価の理由を説明できるか。言葉を置き換えれば、10人の会社の毎日の話になります。この記事の表は、その置き換えです。
Q. 福岡の会社の場合、どこに聞けばいいですか?
A. 無料で登録できる入口として、福岡県と協会けんぽ福岡支部が共同でやっている「ふくおか健康づくり団体・事業所宣言」があります。登録は福岡県のページから行い、費用はかかりません。登録した団体・事業所には、保健師や管理栄養士が「健康づくり実践アドバイザー」として無料で取り組みの相談に乗ります。求人の出し方や労働条件そのものの相談は、福岡労働局とハローワークが窓口です。福岡県以外の会社でも、同じような宣言事業を県が持っていることが多いので、まずは加入している健康保険(協会けんぽの各支部や健康保険組合)に聞くのが早いです。

この記事の立場

人事の側で、求人票と評価と手当を扱ってきました。制度を作る前に、まず原典を読む癖があります。今回も国の報告書を開いて、中小企業という語が一度も出てこないことを確かめました。大手の枠組みをそのまま小さい会社に持ち込むと、たいてい形だけが残ります。訳してから使う、という順番を勧めています。

出典

※各制度の要件・費用・受付期間は変更されます。申請の前に必ず所管の一次ページと窓口で確認してください。個別の労務の判断は社会保険労務士にご確認ください。(閲覧・確認日:2026-08-24)

会社の中身は、外からは見えない。見えるようにする作業は、今日ある事実を置き直すだけで始められる。求人票を直したら、次はこの表を1行ずつ見ていけばいい。

|著者:りゅうた(物流のプライム上場を含む上場企業2社で10年以上、主に人事・労務・総務。福岡で中小企業の業務改革を研究中。)
現場の話の続きは、noteでも書いています → りゅうた@中小企業の業務改革

この記事は「採用と定着」シリーズの入口です