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建設会社がAIで速くできる事務と、速くできない事務

この記事は、建設会社の事務のうちAIに任せて成果が出るものと、任せると外れるものの見分け方をまとめたものだ。境目は仕事の種類ではなく、社内にその仕事を通ってきた人がいるかどうかにある。

先に何のために速くするのかを置き、工事写真・安全書類・出面の三つで線を引き、最後に月曜から試せる五つの手順を並べる。

異業種の集まりに出ると、DXコンサル、AIコンサル、採用コンサル、人事コンサルという肩書きが並ぶ。名刺の文字は全部違う。それでも話を聞いていると、やろうとしている中身は重なって見える。

運送会社の方は 運送会社のAI活用で成果が出るのは、どの業務か をどうぞ。点呼記録や日報を例に、同じ考え方を書いています。

何のために事務を速くするのか、先に決める

目的は一つで、いま人が使っている時間を短くして、別のことに回せる時間を作ることにある。肩書きは手段の呼び名であって、目的の呼び名ではない。だから最初に決めるのは道具ではなく、空いた時間の行き先だ。

行き先を決めずに道具だけ入れた会社では、空いた分がすぐ別の作業で埋まる。触ってはいる建設会社は増えた。事務の人に文章を作らせ、若手が現場でスマホに調べ物をさせている。会社としての使い道を決めたところは、まだ少ない。

新しい工事を取りにいく時間は、どこから出てくるか

受注を増やす時間は、待っていても出てこない。顔を出さなければ元請も施主も増えない。その顔を出す時間は、いまの仕事を速くするか、慣れて短くするかでしか作れない。自分が働いてきて、ここは動かせない前提だと思っている。

作っている最中は持ち出しにしかならない。人が辞める。続けて辞める。現場でトラブルが出る。そのたびに手が止まり、改善は半年寝る。それでも、組み上がったあとに残る時間は自由に使える。

どれくらい短くなるのかの目安は、業務効率化 時間削減の目安に自分の実測を書いた。

空いた時間の取り分は、社員と社長で見え方が反対になる

この見え方の差が、改善の入口で必ず引っかかる。自分が一般社員だったころは、速く終わらせても次の仕事が来るだけだと思っていた。短くした分の取り分が、自分に戻らないからだ。

社長の席から見ると絵が変わる。人を増やさずに、いまの人数で工事をもう一本抱えられる。同じ二時間が、片方には負担の上乗せ、もう片方には受注の余力に映る。

だから順番がある。手をつける前に、空いた時間を何に使うのかを社長の口から先に言う。残業を減らすのか、新しい元請を回るのか、若手の教育に充てるのか。言葉にしなければ、現場は増員なしの増産としか受け取らない。

行き先さえ決まっていれば、届く見込みはある。中小企業基盤整備機構が2026年3月に出した実態調査では、付加価値の創出を効果に挙げた割合がAIで22.3%、従来型のITツールで7.4%だった。見込みの話であって、置いておけば届くわけではない。

Excelを書ける社員がいなくても、事務の道具は動くようになった

机の上の道具は、20年でだいぶ入れ替わった。表計算の関数に始まり、VBA、Googleスプレッドシート上のGAS(Google Apps Script)と来て、いまのAIに至る。動いたのは性能より「書ける人が何人いるか」だ。昔は表計算に強い社員が一人いる会社だけが先へ進み、その人が抜けると元へ戻った。

建設には業種の形に合わせた製品もある。株式会社建設ドットウェブの「どっと原価3」は、見積・実行予算・発注・日報入力・請求までを一つにした原価管理システムで、公式サイトは導入社数6,500社(どっと原価シリーズ累計・2026年7月時点)と公表している。コベック株式会社の「工事台帳管理システム 建設原価ビルダー5」は、本体価格120,000円(税別・CD-ROM版)を公表している(2026年9月時点では、Windows11の影響で出荷を一時停止していた)。どちらが良いかは書かない。工事一本ごとの原価を毎月見る前提で作られている、という点だけ押さえたい。

会社全体の帳簿を扱う汎用のソフトも同じ流れにいる。freee会計やマネーフォワード クラウド会計は、銀行やカードの明細から仕訳の候補を出す。どこまで機械に渡すかは利用者が選ぶ。freee会計の自動登録ルールには、確認を挟まず登録まで終える設定もある。線を引くのは製品ではなく、使う会社の側だ。

AIで成果が出る三つの事務(工事写真・安全書類・出面)

AIが貸してくれるのは手であって、目ではない。出てきた紙が合っているかを見抜くのは人の側の仕事だ。だから成果が出るのは、社内にその道を歩いてきた人がいる事務に限られる。

自分の場合は給与計算がそれにあたる。どこを外すと誰に迷惑がかかるかが頭に入っている。健康保険と厚生年金の等級、所得税、扶養の条件、賃金の決め方。だから機械が返した数字を見た瞬間に、合わない箇所が浮き上がる。

建設の事務なら、三つがすぐ挙がる。

どれも毎月手で回してきた人なら、おかしな出力はその場で見抜ける。逆に、通ったことのない仕事では正解が分からない。自分にとってはSEOやSNSがそれだった。それらしい案は返ってくる。合っているかを測る物差しが手元にない。

工事一本ごとの原価を数えておく必要は、この先重くなる。2025年12月、中央建設業審議会が労務費に関する基準を勧告し、これを著しく下回る契約は禁止された——原価と労務費を数字で示す前提が強まった流れは運送業の適正原価とはに書いた。

国の調査でも、効果は慣れた事務に寄っている

この偏りは、国の統計にも出ている。総務省の情報通信白書で、日本の企業がいちばん効果を実感していると答えた項目は「議事録・メール作成補助」だった。72.3%。会社勤めの人が何十年も手で片づけてきた仕事である。

面白いのは米国の並びだ。同じ項目は42.6%どまりで、トップは「研究・商品開発」の47.5%。ここから先は自分の読み筋になる。その国の働き手が日頃こなしている仕事の側から、先に効果が立ち上がっているのだと見ている。

やったことのない仕事は、小さく試して経験に変える(職人と若手の採用)

では歩いたことのない仕事はどうするか。捨てるのではなく、歩いた側へ引き寄せる。道は二本ある。自分で小さく試して下地を作るか、その道を歩いてきた人に横で見てもらうかだ。

自分はいま、前者の側にいる。このサイトはAIを相棒に自分で組み、記事も出している(2026年10月時点で30本)。速さだけならプロに頼むほうが早い。それでも手を動かすのは、どこが難所でどこを外へ投げるべきかを体感で持っておきたいからだ。

人手の側の事情もある。職人を探すときも、高卒の若手を採るときも、応募の前に会社を調べる手段が変わった。ある調査では、2026年卒と2027〜2028年卒業予定の学生419人のうち76.2%が、就職活動で生成AIを使っていると答えた(2026年3月実施)。

「福岡 内装 求人」と打ち込む人と、AIに「福岡で内装の会社を探している」と聞く人では、会社の届き方が違う。検索順位を上げようとする建設会社は増えた。AIに自社を何と説明させるかまで考えている会社は、まだ見かけない。だから自分のサイトで記録を取っている。

AIを入れても、決めることと確かめることは人の側に残る

苦手を底上げする力のほうは、本物だと感じている。自分は昔から書類を整えるのと、メールを出すのが不得手だった。とくにメールは、出す前にうじうじ迷って下書きに何日も寝かせた。いまは出せる。言いたい筋だけ渡せば文面になるので、迷う時間そのものが消えた。

それでも、決めることと確かめることは人の側に残る。しかも、社員や協力会社に頼んだときと同じ厳しさで見直さないといけない。若手が作った書類をそのまま元請に出す社長はいない。ここがAI化とDX化の裏側だと思っている。速くなった分だけ、目を通す量が増える。

見る人が決まらないまま先へ進むと、高いものを入れたのに現場で誰も開かない、という結末になる。人数の少ない会社ほど、慣れた事務を最初に置く順番が効いてくる。

月曜の朝から試す五つの手順

  1. 事務所で毎月くり返している作業を、紙に10個書き出す。
  2. そのうち、書き写し・体裁の整え・要点まとめにあたるものに丸をつける。
  3. 丸のついた1つを選び、下書きまでを機械に振る。中身の点検と提出は人が持つ。
  4. 浮く見込みの分を何に回すかを決めて、担当している社員に先に言う。
  5. やったことのない仕事は、任せる前に見る人を決める。決まらないうちは手を出さない。

作業を書き出して分ける手順そのものは、業務分解のやり方に3手順でまとめている。

よくある質問

Q. 建設会社がAIを使うなら、どの事務から始めるのがいいか。
A. 社内に何度も通ってきた人がいる事務のうち、書き写し・体裁の整え・要点まとめの部分からです。工事写真の仕分け、安全書類(グリーンファイル)の作成、出面の集計と工事ごとの原価への振り替え、元請への回答メールの下書きが当てはまります。毎月手で回してきた事務なら、おかしな出力をその場で見抜けます。総務省の令和8年版情報通信白書でも、日本の企業が効果を最も実感している業務は議事録・メール作成補助で72.3%でした。見抜ける人が社内にいない仕事は後に回すのが安全です。
Q. 工事写真の整理や安全書類の作成は、AIに丸ごと任せられるか。
A. 下書きまでは任せられますが、提出前の確認は人が持ってください。工事写真なら黒板の記載と工種の対応を人が一度見る。安全書類なら氏名・資格・保険の記載を人が突き合わせる。この形が現実的です。提出先が決まっている書類の誤りは、元請との信用に直結します。外れが出なくなった型から順に、確認を軽くしていくのが順番です。
Q. 建設業向けの原価管理ソフトと、freeeなどの汎用ソフトは何が違うのか。
A. 見ている単位が違います。建設業向けの製品は工事一本ごとの原価が軸で、株式会社建設ドットウェブの「どっと原価3」は見積・実行予算・発注・日報入力・請求までを一つにしていると公表しています。コベック株式会社の「工事台帳管理システム 建設原価ビルダー5」は本体価格120,000円(税別・CD-ROM版)を公表しています(2026年9月時点では、Windows11の影響で出荷を一時停止していました)。freee会計やマネーフォワード クラウド会計は会社全体の帳簿が軸で、銀行やカードの明細から仕訳の候補を出します。工事ごとの原価と実行予算を毎月見たいなら業種向け、まず帳簿の入力を減らしたいなら汎用から、という分け方になります。
Q. 社内に経験のない仕事は、AIでは速くできないのか。
A. そのままでは外れやすく、下地を先に作る必要があります。道は二本で、小さく試して自分の下地にするか、その道を歩いてきた人に横で見てもらうかです。見抜ける人が社内にいないうちは、任せる範囲を小さいままに保ってください。誰が見るかが決まってから、幅を広げるのが順番です。
Q. AIを入れると、事務員を減らすことになるのか。
A. 減らすためではなく、いまの人数で回すために使うほうが中小の実態に合います。建設の事務は一人が経理・労務・安全書類・写真整理を兼ねていることが多く、その人が休むと会社の書類が止まります。書き写しと体裁の整えを機械の側へ寄せると、止まりにくくなります。人を減らす前提で始めると、確認する人まで消えて、誤りが社外に出やすくなります。

内部根拠

筆者は上場企業2社で主に人事・労務を担当し、給与計算と勤怠システムの導入・運用にあたった。外すと誰に影響が出るかを体で覚えている分野では、機械が返した内容の狂いをその場で拾える。一方でSEOやSNSには実務の下地がなく、狂いを拾う物差しを持たない。そのため自社サイトを教材にして、何が起きるかを記録している(2026年10月時点で公開記事30本)。

出典:総務省『令和8年版 情報通信白書(概要)』(2026年7月)。効果実感の首位は日本が議事録・メール作成補助で72.3%、米国は研究・商品開発で47.5%(米国の議事録・メール作成補助は42.6%)。(閲覧日:2026-08-23)

出典:中小企業基盤整備機構『中小企業のAI等の利活用に係る実態調査 調査結果のポイント』(2026年3月)。効果として「付加価値創出」を選んだ企業はAI利用で22.3%、従来型IT利用で7.4%。(閲覧日:2026-08-23)

出典:株式会社建設ドットウェブ「どっと原価シリーズ」(どっと原価3=見積/実行予算/発注/日報入力/請求、導入社数6,500社と公表。どっと原価シリーズ累計・2026年7月時点)、コベック株式会社「工事台帳管理システム 建設原価ビルダー5」(工事台帳・原価管理・出面管理、本体価格120,000円+消費税/CD-ROM版。2026年9月時点では、Windows11の影響で出荷を一時停止していた、詳細はコベック株式会社のお知らせ)。(閲覧日:2026-08-23、2026-09-06追記確認)

出典:freee会計「記帳・仕訳」、freeeヘルプ「明細の自動登録ルールを設定する」(処理方法は「推測する」と「登録する」の二択。後者は確認を挟まず登録まで進む)、マネーフォワード クラウド会計「連携サービスから入力」(標準は候補を確認してから登録)。(閲覧日:2026-08-23)

出典:76.2%はナイル株式会社の調査による。対象は「2026年卒業、2027年・2028年卒業予定の、就職活動をしたorしている学生」419人、実施は2026年3月25〜30日、報道は日本経済新聞2026年4月28日。内訳は「よく使う」34.4%と「ときどき使う」41.8%。民間1社の調査であり、学生全体を代表する数字ではない。

AIは怪しいとか、DXという言葉が分からないとか言われることはある。それでも、次の工事を取りにいくため、家族と過ごす時間を戻すために時間を作る、と置けば使う場所は決まってくる。自分も毎日の作業を、その考え方でAI経由に寄せている。