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運送会社のAI活用で成果が出るのは、どの業務か

運送会社がAIを使うとき、成果が出る業務と、出ない業務がはっきり分かれる。分かれ目は業務の種類ではなく、自分か社員がその業務をやったことがあるかどうかにある。

この記事では、業務効率化は何のためにやるのかから始めて、運送の実務で成果が出る業務と出ない業務の違い、経験のない業務の扱い方まで書く。

2026年9月1日、労働基準監督署の指導は月45時間の一律チェックから、36協定の措置の実施状況を確認する方式に変わった。人を増やせない前提が制度側にも表れたこの変化は、限られた人数で時間を作る手段としてのAIを後押しする(45時間の残業指導、9月に変わる点と変わらない点)。

交流会に行くと、DXコンサル、AIコンサル、採用コンサル、人事コンサルに会う。肩書きは全部違う。ただ、隣で聞いていると、やろうとしていることは同じに見える。

建設会社の方は 建設会社がAIで速くできる事務と、速くできない事務 をどうぞ。工事写真や安全書類を例に、同じ考え方を書いています。

DXコンサルとAIコンサルと採用コンサルの違い

名前は道具の名前であって、目的の名前ではない。DXも、AIも、採用も、行き着く先は同じだ。誰かが使っている時間を減らして、別のことに使える時間を作る。それだけだ。

業務効率化とは、いまの仕事にかかっている時間を減らして、別のことに使える時間を作ることをいう。だから論点は、道具ではなく、空いた時間を何に使うかだ。決めていない会社に道具だけ入っても、時間は別の作業で埋まる。

使ってはいる、という会社は多い。事務の人が文章を作らせ、若い社員がスマホで調べ物をさせている。会社として何に使うかを決めている運送会社が、まだ少ない。

新しいことをする時間はどこから生まれるか

新しいことをする時間は、勝手には出てこない。営業しないと顧客は取れない。けれど時間は、いまの仕事の生産性を上げるか、習熟するかでしか生まれない。自分が働いていて、ここは動かせない前提だと思っている。

効率化を進めている間は、途中コストにしかならない。人が辞める。しかも続けて辞める。顧客とのトラブルが起きる。中断の連続で、改善が半年止まる。それでも、作り終えたあとに残った時間は自由に使える。

どれくらい時間が減るのかという目安は、業務効率化で時間はどれくらい減るのかに自分の実測を書いた。

効率化で浮いた時間は、社員と経営者のどちらのものか

浮いた時間の行き先は、社員と経営者で見え方が正反対になる。自分が一般社員だったころ、効率化しても新しい仕事が増えるだけだ、と思っていた。早く終わらせた人のところに次の仕事が来るからだ。

経営者の側に立つと、逆さに見える。人を増やさずに、いまの戦力で新しい仕事を始められる。同じ2時間の削減が、片方には「仕事が増える」、もう片方には「事業が増やせる」と映る。

ハムスターの回し車は、走り方が悪いから前に進まないのではなく、置き場所がそこだから前に進まない。走る場所を変えるのは、走っている人ではなく経営の仕事だ。効率化を始める前に、空いた時間の使い道を社長が先に社員に伝える。

行き先を決めれば、その先に届く見込みはある。中小企業基盤整備機構が2026年3月に公表した実態調査では、「付加価値創出」の効果を挙げた割合はAIが22.3%、従来のITツールが7.4%だった。ただし、自動ではない。

道具の世代交代(Excel関数・GAS・会計ソフト)

事務を速くする道具は、この20年ほどで大きく4つの世代を通ってきた。Excelの関数、VBA、Googleスプレッドシートで動くGAS(Google Apps Script)、そしていまのAIエージェントだ。賢くなったというより、書ける人の人数が変わった。

その実物が、会計ソフトの自動仕訳だ。freee会計は銀行やカードの明細を自動で取得し、ルールやAIの推測に基づいて記帳する。マネーフォワード クラウド会計も、AIが勘定科目を学習して候補を提案する。

どこまで自動にするかは利用者が選ぶ。freee会計の自動登録ルールには、確認を挟まずに登録まで済ませる設定もある。線は製品でなく、こちらが引く。間違えても直せる運用から始めるのが基本だ。

運送には、会計ソフトとは別に、運行日報や配車データから原価を積み上げ、会計ソフトへ渡す専用システムもある。株式会社エイブルコンピュータ技研の「ATRAS21」(本体価格700,000円〜・勘定奉行や給与奉行と連携)はその一つで、会計ソフトが銀行明細から原価を推測するのに対し、運送は運行データから原価を作る——業種の性格が道具の形に出ている。

AIで成果が出るのは経験のある業務(点呼記録・日報・運賃の突合)

AIは作業する力は貸してくれるが、出てきたものが合っているかどうかの判断は貸してくれない。だから成果が出るのは、自分か社員がすでにやったことのある業務に限られる。

自分の例で言う。給与計算は、何をミスるとまずいかが分かっている。健康保険と厚生年金の等級、所得税、扶養の条件、賃金の決め方。どこで間違えると誰に迷惑がかかるかを知っているので、AIの出したものを見た瞬間に違いが分かる。

運送会社で言えば、すぐ挙がる。乗務前後の点呼記録の入力。ドライバーが手書きした日報を、事務所で打ち直す作業。荷主ごとの運賃と、実際に走った運行を突き合わせて請求書を作る作業。毎日見てきた人なら、出てきたものが合っているかをその場で判断できる。

反対に、やったことのない業務では答えが見えてこない。自分にとってはSEOやSNSがそれだった。AIに聞けば、それらしい案が返ってくる。ただ、それが正しいのかを判定する材料が自分の中にない。

国の調査でも、効果が出ている業務は偏っている。総務省の情報通信白書によると、日本で効果の実感が最も高い業務は「議事録・メール作成補助」で72.3%。多くの人が何年もやってきた業務だ。

同じ調査で米国は順位が違う。議事録・メール作成補助は42.6%、最も高いのは「研究・商品開発」の47.5%。ここから先は自分の読み筋だが、その国の人が慣れている業務から効果が出ている、と見ている。

運転者が運転以外にどれだけ時間を使っているかは、ドライバー不足の対策——採用より先にやることに書いた。

経験のない業務は実験して経験に変える(採用とAI検索)

経験のない業務は、諦めるのではなく、経験のある業務の側に移す。やり方は2つで、自分で小さく試して経験を作るか、その業務の経験がある人に見てもらうかだ。

自分はいま、前者をやっている。このサイトはAIで自分で作り、記事も書いて公開している(2026年10月時点で30本)。早く作るだけならプロに任せたほうが速い。それでも手を動かすのは、何が難しくてどこは外に出すべきかを持っておきたいからだ。

人事側の理由もある。採用は開示の方向に進み、求職者は応募する前に会社をAIに聞くようになった。ある調査では、2026年卒と2027〜2028年卒業予定の学生419人のうち76.2%が、就職活動で生成AIを使っていると答えている(2026年3月実施)。

「福岡 運送 求人」と打ち込む人と、AIに「福岡で運送会社を探している」と聞く人では、届き方が違う。検索順位を上げる会社は多いが、AIに何と答えさせるかを設計する人は少ない。だから自分のサイトで記録を取っている。

AIに任せても、決定と判断は人に残る

苦手を埋める力は本物だと思っている。自分は書類の整理と、メールを送ることが昔から苦手だ。特にメールは、送る前にうじうじ悩んで、下書きに残したまま何日も置いた。いまは送れる。案と流れを指示すれば形になるので、悩む時間が消えた。

ただし、決定と判断は人に残る。しかも、部下や取引先に外注したときと同じレベルで見直さないといけない。部下が作った資料をそのまま客先に出す社長はいない。ここがAI化とDX化の闇だと思っている。速くなった分だけ、確認する量が増える。

確認できる人が社内にいない業務に手を出すと、システムを入れたのに誰も使わない状態と同じ形でつまずく。10人の会社ほど、経験のある業務から始める順番が効く。詳しくは運送会社のシステム化は、なぜ失敗するのかに書いた。

月曜の朝にやること

  1. 自分か社員が何度もやってきた業務を、思いつく順に10個書き出す。
  2. その中から、転記・整形・要約にあたる作業だけに印をつける。
  3. 印のついた作業を1つ選び、下書きまでをAIに任せて、確認と提出は人が行う。
  4. その作業で浮く時間を何に使うのかを決めて、担当している社員に先に伝える。
  5. 経験のない業務は、任せる前に「合っているかを誰が判定できるか」を確認する。

業務を書き出す手順そのものは、業務分解とは、なぜ採用より先に「分ける」のかにまとめている。

よくある質問

Q. 運送会社がAIを使うなら、どの業務から始めるのがいいか。
A. 自分か社員が何度もやってきた業務のうち、転記・整形・要約の部分からです。点呼記録の入力、手書き日報の打ち直し、荷主への回答メールの下書きなどが該当します。何度もやってきた業務は、出てきたものが合っているかをその場で判断できます。総務省の令和8年版情報通信白書でも、日本の企業が効果を最も実感している業務は議事録・メール作成補助で72.3%でした。判断できない業務は後に回すのが安全です。
Q. AIに任せてはいけない業務はあるか。
A. 決定と承認は人に残すのが基本です。ただし会計ソフトには、確認を挟まずに登録まで済ませる設定もあります。freee会計の自動登録ルールは処理方法を「推測する」と「登録する」から選べ、「登録する」にすると確認せずに登録まで自動で終わります。マネーフォワード クラウド会計は、標準では一覧の仕訳候補を確認して「登録」をクリックする形で、自動仕訳ルールに自動登録の設定があります。つまり自動と人の線は、製品ではなく利用者が引きます。間違えても直せる下書きから任せ、外れが出なくなった型だけ自動登録に回すのが安全です。対外的に確定する数字と金銭の承認は人が持ってください。
Q. 経験のない業務は、AIで効率化できないのか。
A. そのままでは成果が出にくく、経験を先に作る必要があります。方法は2つで、小さく試して自分の経験にするか、その業務の経験がある人に見てもらうかです。自社に判定できる人がいない業務は、任せる前に「合っているかを誰が見るか」を先に決めてください。それが決まらないうちは、小さく試す段階に留めるのが安全です。
Q. 業務効率化を進めても、社員は喜ばないのではないか。
A. 浮いた時間の使い道を先に伝えていなければ、社員から見れば仕事が増える作業でしかありません。早く終わらせた人のところに次の仕事が来る、という経験を社員はしています。効率化に手をつける前に、空いた時間を何に使うのか(残業を減らす、新しい荷主を回る、教育に充てるなど)を社長の言葉で伝えてください。同じ改善でも、伝えた場合と伝えない場合で現場の受け取り方が変わります。
Q. Excelのマクロを組める社員がいないと、AIは使えないのか。
A. 必要ありません。以前は関数やマクロを書ける社員がいる会社だけが自動化でき、その人が異動すると止まりました。いまはAIが関数もマクロもスクリプトも書けるので、社内に書ける人がいるかどうかでは差がつきません。差がつくのは、どの作業を自動にして、どこを人が確認するかを決められるかどうかです。

内部根拠

筆者は上場企業2社で主に人事・労務を担当し、給与計算と勤怠・人事システムの導入運用を行ってきた。どの項目を間違えると誰に影響が出るかを把握している業務では、AIの出力の誤りをその場で判定できる。SEOやSNSは実務経験がなく判定できないため、このサイトで記録を取っている(2026年10月時点で公開記事30本)。

出典:総務省『令和8年版 情報通信白書(概要)』(2026年7月)。効果実感は日本の議事録・メール作成補助が72.3%、米国は同項目42.6%で最高は研究・商品開発47.5%。(閲覧日:2026-08-23)

出典:中小企業基盤整備機構『中小企業のAI等の利活用に係る実態調査 調査結果のポイント』(2026年3月)。付加価値創出の効果はAI22.3%、従来のIT7.4%。(閲覧日:2026-08-23)

出典:freee会計「記帳・仕訳」とfreeeヘルプ「明細の自動登録ルールを設定する」(「推測する」は確認してから登録、「登録する」は確認せず自動登録)、マネーフォワード クラウド会計「連携サービスから入力」(標準は仕訳候補を確認して「登録」をクリック。自動仕訳ルールに自動登録の設定あり)。(閲覧日:2026-08-23)

出典:生成AI利用76.2%は、ナイル株式会社が「2026年卒業、2027年・2028年卒業予定の、就職活動をしたorしている学生」419人に行った調査(2026年3月25〜30日実施/日本経済新聞2026年4月28日報道)。「よく使う」34.4%+「ときどき使う」41.8%。単一の民間調査で、学生全体の数字ではない。

出典:株式会社エイブルコンピュータ技研「ATRAS21 トラック運送業管理システム」(運送業向け配車・原価管理システム。日報・運行管理データを請求書に反映、連動製品はOBC社製 奉行シリーズ、本体価格700,000円〜=Aタイプ・スタンドアロン版。OBC「奉行Solutions」の連携ソリューション紹介ページにも同価格の記載)。(閲覧日:2026-09-06)

AIは眉唾だとか、DXの意味が分からないとか言われる。それでも、新しい仕事を始めるため、家族と過ごす時間を増やすために時間を作るのだと考えれば、使いどころは決まる。自分もその見方で、日々の作業をAI経由でやっている。