人手不足はなぜ採用で埋まらないのか——運転席で日報を書くドライバーの話
ドライバーが足りないと言いながら、その足りないはずのドライバーに、運転席で経費の計算や日報の清書をさせている会社は多い。足りないのは本当は「人」ではなく、「運転手にしかできないことに、その人の時間を寄せる設計」のほうだ。採用や賃上げの前に、運転以外の仕事を運転する人から剥がす。追加の頭数も、大がかりなシステムも要らない。それだけで、走れる時間は戻ってくる。
深夜、車庫に戻ってきたトラックの運転席で、一日の最後に、手書きの日報を書いているドライバーがいる。エンジンを切って、ルームランプだけをつけて、伝票の束と睨めっこしている。今日は何時に着いて、待たされて、どこで積んで、いくら使ったか。走ってきた身体でそれを書くから、字はだんだん雑になっていく。書き終わって、レシートを輪ゴムでまとめて、それでようやく帰れる。家に着く頃には、日付が変わっていることもある。
この光景は、特別な会社の話ではない。走り終えた人間が、そのまま事務の続きを背負って帰る。この人が足りない、と会社は言う。運転手が足りない、と。でも、その足りないはずの運転手に、いま何をさせているかというと、運転席で経費の計算をさせている。ここに、話のねじれの全部が詰まっている。
なぜ「給料を上げればいい」が、たぶん効かないのか
先に、一番よく出てくる打ち手をつぶしておきたい。人手不足なんだから給料を上げればいい、という話だ。トラックの仕事は、もともと長時間労働で、基本給は低めに設計されている会社が多い。その代わり、走った時間が長くなるぶん、残業や歩合で手取りがそれなりに出るようになっていた。長距離ならなおさらで、拘束時間の長さと引き換えに年収を作ってきた、という構造が業界全体にある。
そこに2024年問題が来た。時間外労働に上限がついて、走れる時間そのものが減った。走れる時間が減るということは、そのぶん手取りが減るということでもある。人手が足りないうえに、稼ぎにくい仕事に変わっていく。この流れの中で「給料を上げて人を集めよう」とやれる会社は、正直そんなに多くない。上げる原資が、規制でむしろ細っているからだ。しかも辞める理由は「安い」より「なぜこの額か説明されない」という不信のことも多い(俺の手当、合ってるのか)。だから、給料や採用を先頭に置くと、たいてい行き詰まる。ここで一度、問いを立て直したい。足りないのは本当に「人」なのか、それとも「その人の時間の使い方」なのか。
「時間の設計」とは
時間の設計とは、限られた頭数の中で「その人にしかできない仕事」に本人の時間が寄るように、仕事の割り当てを引き直すことである。物流のプライム上場企業で運行管理や現場の業務改革に関わっていて、何度も見たのが、ドライバーが運転以外の仕事に時間を取られている光景だった。
机で経費を処理する。運行記録に手書きで記録を残す。ガソリンの領収書をまとめる。集金の釣り銭を数える。資材が切れそうだからと発注をかける。どれも、要る仕事ではある。要るのだけれど、どれも「運転」ではない。運転手が足りないと言いながら、その貴重な運転手の時間を、運転以外の事務でどんどん削っている。だとすれば、足りていないのは頭数ではなくて、運転手にしかできないことに運転手の時間を寄せる設計のほうだ、という見方ができる。見てきた範囲では、こちらのケースのほうが多かった。
人手不足は求人票の書き方の問題に見えて、実際は募集の前の切り分けで詰まっている会社が多い。この「運転じゃない仕事に線を引く」作業を業務分解と呼んでいて、やり方は4ステップに整理した。
道具より先に、人の振り直しをやる方法
ここでツールの話に飛びたくなる。日報アプリを入れよう、経費精算のシステムを入れよう、と。気持ちは分かる。でも順番が逆だと、たぶん定着しない。先にやるのは、ドライバーの仕事を全部いったん書き出して、「これは運転じゃなくてもいい」に線を引くことだ。線の向こう——経費の入力、ガソリンの領収書、釣り銭、資材の発注、日報の清書——を、いま社内にいる内勤やパートに振り直せないか、を先に考える。
たとえば、月末のレシート整理。運転して深夜に帰ってきた人間が、眠い目でやる必要は、たぶんない。日中に内勤が10分でまとめられる仕事だったりする。同じ作業でも、誰がいつやるかで、会社にとっての重さがまったく変わる。そのうえで、それでも残るものだけを、道具に渡す。手書きの日報を音声で吹き込むだけにする、といったように。順番は、人の振り直しが先で、道具は最後。しかもこの人の振り直しは、追加費用ゼロで動かせることが多い。一度これが仕組みになると、ドライバーの拘束時間そのものが短くなって、規制の中でも回る形に近づいていく。
他社でも、同じことが起きている
三共貨物自動車という会社は、積卸を専門にする社員を荷主の拠点に常駐させて、ドライバーの荷役や附帯作業をドライバーから切り離した。その結果、トラック1台あたりの実車時間——つまり実際に走っている時間——が、1〜1.5時間増えたと報告されている。注目したいのは、これがITツールを入れて実現した話ではないことだ。「運転じゃない仕事を、運転する人から分ける」——それだけで、走れる時間が増えている。道具が先ではなく、役割の引き直しが先、という順番が、他社の実例でも裏づけられている。
社長がこの週末にできること
道具は、この数年で確実に賢くなっていく。ある3PLの会社(スーパーレックス)は、まる2日かかっていた固定ルートの配車変更を、自動配車で数時間まで縮めた。ただし先に配車手順を人の側で整理してから道具を当てている。線を引いてから道具、という順番がここでも先だった。
賢い道具が来たときに、それを使える会社と使えない会社に分かれる。差がつくのは、道具を早く買った順番じゃない。ドライバーの仕事のうち「これは運転じゃなくてもいい」がどこか、紙一枚に線が引いてあるかどうかだ。線さえ引いてあれば、道具は後からそこに当てはめられる。だから、この週末にやれることは、たぶん一つだけでいい。
- ドライバー一人の一日を、思いつくまま書き出す(点呼、日報、伝票、経費、釣り銭、資材の発注まで、運転以外も全部)。
- 書き出した中で、「運転じゃなくてもいい仕事」に線を引く。
- 線の向こうを、日中の内勤やパートに振り直せないか、誰でもできる単純作業から順に考える。
書いてみると、運転じゃない仕事が意外と多いことに気づくはずだ。その線を引いた紙を持って、そういう目でもう一度、現場を眺めてみてほしい。
よくある質問
- Q. 事務を内勤に振り直したくても、その内勤も手一杯だ。どうすればいいか。
- A. まず「運転じゃない仕事」を全部書き出し、その中でも誰でもできる単純作業(レシート整理・伝票の清書・単純入力)から先に渡すのがコツです。判断が要る仕事は残しつつ、手だけ動かせばいい部分を切り出す。それでも回らないなら、その業務は新しく人を採る前にまず削れないかを疑う対象になります。内勤が手一杯なのは、内勤にも本来やらなくていい仕事が積まれているサインであることが多いです。
- Q. ドライバー本人が「自分でやったほうが早い」と言って事務を手放さない。
- A. 責める場面ではありません。本人は自分のやり方で溜めてきた手順があり、渡すと逆に時間がかかると感じています。だから「取り上げる」ではなく「あなたには運転に集中してほしい、そのために事務を引き剥がしたい」という向きで話す。最初は一部だけ、たとえば月末のレシート整理だけを渡してうまく回った実感を先に作ると、次が渡しやすくなります。
- Q. 結局、アプリやシステムは入れなくていいということか。
- A. 入れます。ただし順番です。先に「運転じゃない仕事」を人に振り直し、それでも残った定型作業(日報の記録・経費の入力など)に最後にツールを当てる。この順番だとツールは削り切れなかった分の効率化というはっきりした役割を持つので、現場に定着します。逆に切り分けをしないままツールだけ入れると、ドライバーが深夜にそのツールを操作することになり、削りたかった時間が形を変えて残るだけになります。
この記事の立場
物流のプライム上場を含む現場で、運行管理や業務改革に関わってきた経験からの整理です。運転手が足りないと言う会社ほど、その運転手に運転以外の仕事を積んでいることが多い。頭数を増やす前に、一日から運転じゃない仕事を剥がすと、走れる時間はまだ戻せる。そう見てきたことを書いています。
出典
- 三共貨物自動車 実車時間+1〜1.5時間/台(積卸専任社員を荷主拠点に常駐させ荷役を分離):国土交通省「トラック運送における生産性向上方策に関する手引き」(平成29年〈2017年〉3月・P25)
- スーパーレックス 配車の所要時間 丸2日→数時間(自動配車の導入。人手側の手順整理・標準化が前提):国土交通省「物流・配送会社のための物流DX導入事例集」(令和4年〈2022年〉3月・P17)
※2024年問題・拘束時間の具体数字は本記事では最小化しています(賃金・労働時間の数字は別記事で扱います)。(閲覧・確認日:2026-07-10)
運転の時間は、もう増やせない。上限がついた。だから次にやれることは、運転以外の時間を、どれだけ運転に——そして家に——戻せるか、それしかないと思っている。大げさなシステムを買う話じゃない。まずは紙一枚で、一人のドライバーの一日から、運転じゃない仕事に線を引く。それだけで、深夜の運転席で日報を書くあの時間の一部は、たぶん昼間の内勤の10分に移せる。運転席で日報を書く、あの時間を、運転に戻したい。そのために書いている。
運転以外の事務を振り直して、ドライバーの時間が実際に戻った現場もあれば、渡し方をしくじって元に戻った現場もある。うまくいった側に共通していたのは、いきなり全部ではなく、月末のレシート整理のような一つの作業から渡していたことだった。順番と、渡す量。たぶん、そこで決まる。