トラック新法で、結局何が変わるのか——5分でわかる改正の全体像
「トラック新法」とは、2025年6月に公布された貨物自動車運送事業法などの改正の通称だ。柱は4つ。①適正な原価を収受する義務(安売りをしにくくする)②5年ごとの許可更新制③再委託は2回までの努力義務④白ナンバーへの運送委託に対する荷主への罰則。①②は数年かけて、③④はすでに施行された。この記事は、社長が自社への影響を5分でつかむための全体地図だ。細かい各論は、それぞれ別の記事に分けてある。
制度の話は、条文を追い始めると急に難しくなる。だからここでは、法律用語をなるべく社長の言葉に置き換えて、「何が・いつから・自社にどう効くか」だけを地図にする。まず全体像を1枚で。
トラック新法の全体像——2本の法律と、4つの柱
正確には、2025年(令和7年)6月11日に公布された2本の法律(令和7年法律第60号・第61号)を指す。ねらいは一言でいえば、「ドライバーの賃金を確保できるだけの運賃が、きちんと運送会社に入る仕組みにする」こと。そのために、運賃の下支え・事業者の質のチェック・下請けの深さの制限・荷主側の責任、という4方向から手が入った。順に見ていく。
柱①:適正原価の収受義務——「下限運賃」に近い考え方
改正法は、トラック運送事業者に「適正な原価を収受する」ことを義務づけた。これは、コストを割るような安値で仕事を受け続けることに、法律の側からブレーキをかける考え方だ。いわば「下限運賃」に近い発想で、その物差しになるのが、国が示す標準的運賃だ。標準的運賃は2024年に改定され、運賃の引き上げに加えて積込料・取卸料なども別建てで示された。適正原価の収受義務の施行は公布から3年以内で、その基準となる告示は、義務の施行より前に出される想定だ(国は2026年7月に「適正原価の設定に向けた有識者検討会」を立ち上げた段階で、告示の時期はまだ決まっていない)。
標準的運賃そのものの中身は標準的運賃とはに、積み下ろしや待ち時間を別料金にする動きは荷待ち・荷役の別料金化とはに、それぞれ詳しく書いた。
柱②:5年ごとの許可更新制——一度取った許可が、更新制になる
これまで一度取れば続いたトラック運送事業の許可が、5年ごとに更新を受けなければ効力を失う仕組みになる。更新の際には、輸送の安全確保・社会保険料の納付・適正原価の収受・労働者の適切な処遇の確保といった法令の規定を守っているかが見られる。守っていなければ更新されない可能性がある。施行は公布から3年以内で、その後さらに2年の経過措置を経て、更新の申請・審査が順に始まる(5年ほどで一巡する見込み)。
これは突然出てきた仕組みではない。貸切バスでは2017年から同じ5年更新制が先に導入され、更新時の法令試験や事業収支の審査で不適格な事業者を外す運用がすでに動いている。トラックはその後追いだと考えると、何が起きるかは見通しやすい。
柱③:再委託は2回まで——多重下請けにブレーキ
荷物を受けた会社が別の会社へ、そこがまた別の会社へと、運送が何段も下に流れていく多重下請けは、末端の運送会社ほど運賃が薄くなる構造を生んできた。改正では、貨物運送事業者・利用運送事業者に対して、再委託を2回までとする努力義務が設けられた。あわせて、これまで実運送事業者だけに課されていた運送契約時の書面交付義務が、間に入る利用運送事業者にも及ぶようになった。この再委託2回制限などは、すでに2026年(令和8年)4月1日に施行されている。
柱④:白トラへの荷主罰則——発注した側も罰せられる
無許可で有償の運送をする、いわゆる「白トラ(白ナンバー)」への規制も強まった。2026年(令和8年)4月1日から、荷主等が白ナンバーのトラックに有償で運送を委託した場合も、法違反となり、荷主側に100万円以下の罰金が科されうる。これまで処罰の対象は運送する側だけだったのが、発注する荷主側にも広がった、という点が大きい。国は「トラック・物流Gメン」を総勢360名規模に拡充してこの監視にあたっている。
施行スケジュール——「もう始まった」ものと「これから」のもの
いちばん混乱しやすいのが時期だ。柱ごとに施行のタイミングが違う。
| 内容 | 施行時期 |
|---|---|
| 再委託2回制限(努力義務) | 2026年4月1日(施行済み) |
| 白トラへの荷主規制 | 2026年4月1日(施行済み) |
| 利用運送事業者への書面交付義務 | 2026年4月1日(施行済み) |
| 許可更新制(5年ごと) | 公布から3年以内(2028年6月まで)+その後2年の経過措置 |
| 適正原価の収受義務 | 公布から3年以内。基準となる告示は義務の施行より前(時期未定) |
| 労働者の処遇確保義務 | 許可更新の要件として、上記と同じ流れで |
つまり、下請けと白トラまわりはもう動いている。運賃と許可更新は、これから数年かけて効いてくる。「まだ先」ではなく「もう半分は始まっている」というのが、正確な現在地だ。
筆者の読み筋——なぜ今、運賃を規制するのか
ここからは、制度の解説ではなく、物流の現場を見てきた人間としての私の読み筋だ(外れることもある、一つの見方として読んでほしい)。私が昔物流にいた頃、先輩は「残業はあるけど高収入なのが物流の魅力だ」と言っていた。ところが働き方改革で長時間労働に上限がかかると、その残業で成り立っていた総収入が下がった。労働時間は減ったのに、手取りが減る。これでは、ただでさえきつい仕事に、人はますます集まらない。
だから国は、労働時間を締めた分、運賃の側を規制して原資を確保しようとしている——というのが私の見立てだ。荷主に対しては、上場している大手の物流会社でさえ強く交渉できないのが実情で、中堅・中小ならなおさらだ。個社の交渉に任せていては運賃は上がらない。だから、標準的運賃という物差しを示し、適正原価の収受を義務にし、更新制で「安売り・法令違反の会社は続けられない」形にしていく。1990年(平成2年)の物流二法で需給調整の規制を外し、価格競争へ舵を切った——その流れを、36年目にして労働者を守る方向へ引き戻す転換点。今回の改正は、その大きな舵の一部だと私は見ている。
自社は、何から手をつけるか
全部を一度にはできない。規模で順番を分けるのが現実的だ。
- まず全社共通で:今の運賃・料金が、国の標準的運賃と比べてどの水準かを1回照らす。積み下ろしや待機の料金を請求できていない取引がないかを洗い出す。
- 車両5両ほどの規模なら:社会保険の納付・労働時間の記録・点呼の記録という「更新で必ず見られる基本」を、抜けなく回す形に整える。人手が足りないなら、記録まわりの事務を先に道具へ逃がす。
- 車両20両ほどの規模なら:加えて、ドライバーの処遇(評価と賃金)の説明できる仕組みづくりに着手する。同じ改正で「労働者の公正な評価に基づく処遇」の確保が事業者の義務になるためだ(更新の審査でどこまで見られるかは、今後の省令による)。
増える事務を人の手で受け止めようとすると、必ずどこかで破綻する。だから、減らせる事務を先に道具へ渡して、人は「守るべき記録」と「荷主との交渉」に集中する——この順番が要だ。事務を工程に分けて渡す考え方は業務分解とはに書いた。
よくある質問
- Q. トラック新法とは何ですか?いつ公布されましたか?
- A. 「トラック新法」は、2025年(令和7年)6月11日に公布された貨物自動車運送事業法などの改正の通称です。正確には2本の法律(令和7年法律第60号・第61号)からなり、目的はトラックドライバーの賃金の確保と業界の質の向上です。主な柱は、適正な原価の収受を義務づけること、5年ごとの許可更新制、再委託を2回までとする努力義務、白ナンバー(無許可)への運送委託に対する荷主への罰則です。
- Q. トラック新法は、いつから施行されますか?
- A. 段階的です。再委託2回制限・白トラの荷主規制・利用運送事業者への書面交付義務は、2026年(令和8年)4月1日にすでに施行されています。一方、5年ごとの許可更新制・適正原価の収受義務・労働者の処遇確保義務は、公布から3年以内(2028年6月まで)の施行で、その後さらに2年の経過措置を経て更新の審査が始まります。基準となる適正原価の告示は、この収受義務の施行より前に出される想定で、時期はまだ決まっていません(2026年7月に国の有識者検討会が始まった段階です)。
- Q. 許可更新制で、更新されないとどうなりますか?
- A. トラック運送事業の許可は5年ごとに更新を受けなければ効力を失う仕組みになります。輸送の安全確保・社会保険料の納付・適正原価の収受・労働者の適切な処遇の確保といった法令の規定を守っていない場合、更新されない可能性があります。先行して同じ更新制を導入した貸切バスでは、更新時に法令試験の再受験や事業収支の審査があり、基準を満たさないと不許可となる運用が行われています。
- Q. 再委託(傭車)は、何次まで認められますか?
- A. 改正法では、貨物自動車運送事業者および貨物利用運送事業者に対し、再委託の回数を2回以内までとする努力義務が定められました。この部分は2026年4月1日から施行されています。罰則を伴う禁止ではなく努力義務ですが、多重下請けが深くなるほど、実際に運ぶ会社の手取りが薄くなる構造への対処という位置づけです。あわせて元請には、実際に運んだ事業者を記録する「実運送体制管理簿」の作成が義務づけられています。
- Q. 実運送体制管理簿とは何ですか?誰が作るのですか?
- A. 元請となる貨物自動車運送事業者が作成する、実際に運送を行った事業者を記録する書類です。2025年4月1日から義務づけられ、保存期間は1年間とされています。何次の下請けが、どの区間を、実際に運んだのかを記録に残すことで、多重下請けの実態を見えるようにする狙いがあります。下請けとして受ける側にとっては、自社が管理簿に記載される立場になるということでもあります。
この記事の立場
物流の会社で、主に人事の側から現場を見てきた経験からの整理です。本文の施行時期・4つの柱の内容は、筆者の推測ではなく国土交通省が公表した一次資料に基づいています。一方、「なぜ今、運賃を規制するのか」の読み筋は、外れることもある筆者個人の見立てで、事実の記述とは分けて書きました。手続きの詳細や自社が更新に間に合うかの判断は、条文と最新の政省令、必要に応じて専門家への確認が要ります(本記事は申請の代行や個別助言を行うものではありません)。
出典(国の一次資料)
- 国土交通省「トラック適正化二法のポイント」(改正の全体像・施行時期・条文相当の文言)https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001992449.pdf
- 国土交通省 制度ページ(貨物自動車運送事業法の改正)https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_mn4_000019.html
- 国土交通省 荷主向けリーフレット(白トラ・100万円以下の罰金)https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001992402.pdf
- 国土交通省 報道発表(施行期日を定める政令・2026年4月1日施行分)https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001969743.pdf
- 国土交通省「貸切バス事業許可の更新制の導入」(先行モデル)https://www.mlit.go.jp/common/001174110.pdf
- 貨物自動車運送事業法(平成元年法律第83号・いわゆる物流二法/平成2年〈1990年〉12月1日施行で免許制を許可制に転換・需給調整規制を原則廃止)https://laws.e-gov.go.jp/law/401AC0000000083
「結局うちは何をすればいいのか」と聞かれたら、私はまずこの4つの柱と施行時期の地図を見せる。全部を一度にやる必要はないが、どれも「まだ先」ではない。この地図を手元に置いて、自社の現在地から一歩ずつ——その最初の1枚として、この記事を書いた。動きがあれば、この記事に追記していく。