下請法が変わって、トラックの取引も対象になった——荷主と話すときの、新しい根拠
2026年(令和8年)1月1日、下請法が「取適法」(中小受託取引適正化法)に変わった。改正の柱のひとつが、対象となる取引に「特定運送委託」を加えたことだ。荷主と運送会社の取引に、この法律が使えるようになった。規制がまたひとつ増えた、という話ではない。荷主と運賃の話をするときに、こちらが持ち出せる根拠が増えた、という話だ。
この記事では、何が禁止されたのか・自社は対象になるのか・今日から何を書面にするのかを、公正取引委員会と中小企業庁の資料から整理する。あわせて、条文の枠に収まりきらない現場の話——傭車という存在についても、私が見てきた範囲で書いておく。
何が変わったのか——運送が「対象取引」に入った
正式名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」。長いので、略称の中小受託取引適正化法、通称の取適法で呼ばれる。もとになった改正法は「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」(令和7年法律第41号)で、2025年(令和7年)5月23日に公布され、2026年1月1日に施行された。同日以降に行う委託から適用される。
改正の内容は複数あるが、運送の現場に効くのは次の4つだ。①対象取引に特定運送委託を追加/②判定に従業員数の基準を追加/③協議に応じない一方的な代金決定の禁止/④手形払い等の禁止。とくに①と③が大きい。荷主と運送会社の契約そのものが法律の射程に入り、そのうえで「話し合いに応じないまま値段を決めること」が名指しで禁止されたからだ。
「特定運送委託」とは何か。条文(第2条第5項)は長いが、中身は単純だ。自社が売った物・請け負って作った物・請け負って直した物を、その取引の相手方に届ける運送を、他の会社に委託すること。たとえば、家具を売った小売業者が、その家具を買った人の家に届ける運送を委託する。食品加工業者が、請け負って作ったPB商品を、発注元の小売業者へ運ぶ運送を委託する。自動車修理業者が、直した車をお客さんのもとへ運ぶ運送を委託する。この形が特定運送委託だ。
逆に、自社の工場から自社の倉庫へ運ぶような拠点間の輸送は、「取引の相手方に対する運送」ではないので対象外になる。同じ荷主の同じトラックでも、どの荷物を、誰のところへ運ぶかで扱いが分かれる。ここは押さえておきたい。
何が禁止されたのか——実務で効く順に
取適法は、委託する側の禁止事項を11項目定めている。公正取引委員会・中小企業庁のテキストは、この11項目について「たとえ中小受託事業者の了解を得ていても、また、委託事業者に違法性の意識がなくても、これらの規定に触れるときには、本法に違反することになる」と明記している。「相手が納得しているから大丈夫」は通らない、という設計だ。運送の現場で効きそうな順に並べる。
| 禁止されていること | 条文 | 現場での見え方 |
|---|---|---|
| 協議に応じない一方的な代金決定 | 第5条第2項第4号 | コストが上がって価格協議を求めたのに、協議に応じない、必要な説明をしないまま一方的に代金を決めること。運賃の据え置きを話し合いなしで通告する形も、ここに当たりうる |
| 代金の支払遅延 | 第5条第1項第2号 | 受領日(運送なら役務の提供を受けた日)から60日以内に定めた支払期日までに払わないこと。手形の交付や、期日までに現金化しにくい支払手段を使うことも含まれる |
| 代金の減額 | 第5条第1項第3号 | あらかじめ決めた代金を減らして払うこと。振込手数料の天引きもここに関わる(後述) |
| 買いたたき | 第5条第1項第5号 | 類似品等の価格または市価に比べて著しく低い代金を不当に定めること。燃料が下がったからと従来の単価から一律に一定率を引き下げる、といった形 |
| 購入・利用強制 | 第5条第1項第6号 | 委託する側が指定する物や役務を、強制的に買わせたり使わせたりすること。余った商品の買い取りを求める、保険の切り替えを求める、など |
| 報復措置 | 第5条第1項第7号 | 公正取引委員会・中小企業庁・事業所管省庁に知らせたことを理由に、取引数量を減らす、取引を止めるなどの不利益な扱いをすること |
| 受領拒否・返品 | 第5条第1項第1号・第4号 | 注文した物の受領を拒む、受け取った物を返す |
支払いは、受領から60日以内
支払期日は、受領した日(運送の場合は役務の提供を受けた日)から起算して60日の期間内で、かつできる限り短い期間内に定めなければならない(第3条)。支払期日を定めなかったとき、あるいは60日を超えて定めたときは、受領日から60日を経過した日の前日が支払期日とみなされる。支払いが遅れた場合、委託した側は受領後60日を経過した日から支払日までの期間について年率14.6%の遅延利息を払う義務を負う(第6条)。
ここで実務上効くのは、支払期日が「書面で確定させたもの」だという点だ。請求書の到着が遅れたことは、支払日を後ろにずらす理由にはならない。決めた日が来れば払う。なお、毎月末日納品締切・翌月末日支払といった月単位の締切制度を採っている場合、大の月で31日になるケースを「2か月以内」として運用し、支払遅延として問題にしない扱いがある。
振込手数料の天引きは、同意があっても問題になる
運送の現場で最も多いのが、これだと思う。振込手数料を運賃から差し引いて入金する扱いだ。公取委・中企庁のテキストのQ&Aは、一括決済方式や電子記録債権で代金を支払う際に生じる手数料(受取手数料、システム手数料等)を中小受託事業者に負担させることについて、「中小受託事業者との合意の有無にかかわらず、支払遅延として本法違反となる」と示している。
つまり、受け取る側が「それで構いません」と答えていても、差し引いた側の問題として扱われる。「うちは了承しているから」は、守ってくれる理屈にならない。そしてこれは、裏返して自分にも刺さる。自社が傭車に出す側に回った瞬間、今度は自社が同じ物差しで見られる側になる。
書面(発注書)を出す義務——運送申込書で兼ねられる
取適法は、委託した場合に直ちに、書面または電磁的方法で発注内容を明示することを求めている(第4条)。明示する項目は、当事者の名称、委託をした日、役務の内容、役務の提供を受ける日または期間、提供を受ける場所、そして代金の額と支払期日など。金額が具体的に出せない場合は算定方法の明示でよい、という定めもある。
この趣旨は、電話一本で受けた仕事が後でトラブルになるのを防ぐことにある。「今から4トンで名古屋まで行ける?」「はい、わかりました」——運賃も支払日も聞かないまま走り、あとで金額と支払日で揉める。この構図をなくすための書面だ。逆に言えば、この書面の本丸は「いくらを、いつ払うのか」の2点である。
実務では、標準貨物自動車運送約款の改正で相互交付が定められた運送申込書で、この書面を兼ねられる。新しく別の帳票を起こす必要はない。ただし注意点がひとつある。保存年限が違う。取適法は、記録すべき事項の全部を記載・記録した日から2年間の保存を義務づけている(第7条)。運送事業法まわりの1年で捨ててしまわないこと。
自社は対象になるのか——資本金と従業員数で決まる
運送の委託がこの法律の対象になるかは、委託する側と受ける側の、資本金または従業員数の組み合わせで決まる。特定運送委託は、物品の製造・修理などと同じ区分に置かれている。
| 委託する側(荷主など) | 受ける側(運送会社) |
|---|---|
| 資本金3億円超 | 資本金3億円以下(個人を含む) |
| 資本金1千万円超3億円以下 | 資本金1千万円以下(個人を含む) |
| 常時使用する従業員300人超 | 常時使用する従業員300人以下(個人を含む) |
下2段が現実的なところだろう。資本金3億円超の荷主はそう多くない。実務では、まず取引先の資本金を確認する。そして今回の改正で、資本金とは別に従業員数の基準が加わった。委託する側の従業員が300人を超え、受ける側が300人以下なら、資本金の大小にかかわらず対象になる。この基準が追加された背景には、資本金の額を動かすことで対象から外れる形が生じていた、という事情があるとされる。資本金という一本の物差しだけでは、抜けられてしまう、ということだ。
でも、現場はもっと複雑だ
ここまでは制度の話だ。ただ、実際の運送の現場を見ていると、この枠だけでは説明しきれない関係がある。傭車のことだ。
傭車(ようしゃ)とは、自社で受けた運送を他社に出すこと、またその車をいう。忙しい日に他社の車を借りる、逆に手が空いた日に他社の仕事を受ける——運送の現場では日常的な形だ。
傭車の運転者は、同じ現場に入り、同じ荷物を、同じ手順で運ぶ。朝の集合場所も、荷主の担当者とのやりとりも、社員のドライバーと変わらないことがある。取引先というより、自社の一部のように働いている——そう見える場面が、私が見てきた範囲でも確かにあった。
だから、「これは業務委託なのか、それとも社員に近いのか」という線が、現場ではとても曖昧になりやすい。ただしこれは取適法とは別の論点で、「労働者性」という考え方で判断される。契約書の名前ではなく、指揮命令や時間・場所の拘束といった実態で決まるもので、答えは個々の実態によって変わる。ここでは深入りしないが、委託の形でドライバーを使っている会社にとっては、避けて通れない論点だ。
もうひとつ。傭車は、荷主から受けた運賃より安く出す仕組みでもある。受けた運賃と出す運賃の差が、間に入った会社の取り分になる。だから、間に入る会社が増えるほど、実際にハンドルを握る会社の手取りは薄くなっていく。取適法の改正と同じタイミングで、トラック新法の側から多重下請けの是正(再委託は2回までとする努力義務)が入ったのは、この構造への対処だと私は読んでいる。値段のルールと、段数のルールを、両側から同時に締めにきている。
そして、この構造の中で自社がどこに立っているかは、日によって変わる。荷主から受けるときは「受ける側」だが、傭車に出すときは「委託する側」だ。取適法は、その両方から自社を照らす。荷主に対して根拠として使える法律は、自社が下に出すときには、そのまま自社を測る物差しになる。
今日からできること(0円)
制度の全体像をつかむより先に、明日の朝から動かせることを書いておく。どれもお金はかからない。
- 口頭で受けている仕事を、書面にする。紙でなくてもいい。取適法は電磁的方法での明示を認めているので、メールでも構わない。運送申込書の形にすれば、約款側の書面と兼ねられる。
- 金額と支払日だけは、必ず書く。明示項目は複数あるが、後で揉めるのはほぼこの2つだ。金額が確定できないなら、算定方法を書く。
- 2年間、保存する。1年で捨てない。保存の場所と担当を、この機会に決めてしまう。
- 運送以外の作業を、別の行にして書く。荷待ちや積み込みは、運賃とは別に対価を収受するものとして約款で整理されている。書面上で運賃と混ぜてしまうと、値上げの交渉材料が一行に潰れる。分け方は荷待ち時間の別料金化に書いた。
- 自社の運賃が、今どの水準かを一度照らす。買いたたきかどうかは「類似品等の価格または市価に比べて著しく低いか」で判断される。その物差しとして国が示しているのが標準的運賃だ。中身は標準的運賃とはにまとめた。
正直に書いておくと、5つ目の「物差し」はまだ完全には固まっていない。買いたたきの判断に、運送の適正原価がどこまで使われるようになるかは、これから決まっていく部分だ。ただ、運賃の根拠を自分の手元に持っているかどうかで、話し合いの入り口は変わる。持っていない状態で「上げてください」と言うのと、根拠を出して「この水準を下回っています」と言うのとでは、同じ言葉でも重さが違う。
そして、これらを続けるには、書面を作る手間そのものを軽くしておく必要がある。受注のたびに一から入力していては、忙しい日から先に抜ける。同じ内容を何度も書き写す作業を先に手放しておくと、書面化は続く。何をどう分けて手放すかは業務分解とはに書いた。
どこに相談すればいいか
実際に「これは違反ではないか」と思う場面に出くわしたら、内容によって窓口が分かれる。
- 取引・支払いのこと(運賃の決め方、支払いの遅れ、減額、買いたたきなど)→ 公正取引委員会の相談窓口(フリーダイヤル 0120-060-110・平日10時〜17時)、中小企業庁「取引かけこみ寺」(フリーダイヤル 0120-418-618・通話料無料・全国48か所に設置され、相談と裁判外紛争解決の手続きに対応)
- 労務・賃金・就業規則のこと(ドライバーの賃金制度、労働時間、規程の整備)→ 社会保険労務士
- 契約書・紛争のこと(契約書の作成やレビュー、相手と争いになった場合)→ 弁護士
相談したことを理由に取引を減らされる、止められるといった扱いは、報復措置として禁止されている(第5条第1項第7号)。窓口が用意されているのに使われないのは、たいてい「相談したことが伝わったら、仕事がなくなるのでは」という不安があるからだ。その不安に対して、法律の側に手当てがあることは知っておいていい。
制度はもう動いている
取適法は2026年1月1日に施行された。これから来る話ではなく、もう動いている。使えるものは使えばいい。
この改正で何が変わったかを一言でまとめるなら、「安く受けるしかない」から「根拠を出して話す」に変わる余地ができた、ということだと思う。法律ができたから運賃が上がる、という単純な話ではない。ただ、これまで「言っても仕方がない」で終わっていた場面に、持ち出せる条文ができた。その条文を使うには、いくらで、いつ払ってもらう約束だったのかが、書面に残っていることが要る。だから、始まりは書面の1枚だ。次に受ける仕事から、金額と支払日を書いて残す。それが、次の交渉の材料になる。
よくある質問
- Q. 取適法は、いつから運送の取引に適用されますか?
- A. 2026年(令和8年)1月1日からです。下請法を改正した「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」(令和7年法律第41号)が2025年5月23日に公布され、2026年1月1日に施行されました。法律の名称も「中小受託取引適正化法」(略称・取適法)に変わっています。この改正で、対象となる取引に「特定運送委託」が加わりました。販売した商品や、請け負って製造・修理した物を、取引の相手方に届ける運送を他社に委託する取引です。荷主と運送会社の取引に、この法律が使えるようになりました。
- Q. 荷主が振込手数料を引いて運賃を払うのは、問題になりますか?
- A. 取適法は、あらかじめ定めた代金を減額することを禁止しています(第5条第1項第3号)。公正取引委員会・中小企業庁のテキストは、一括決済方式や電子記録債権で代金を支払う際に生じる手数料を中小受託事業者に負担させることについて、「中小受託事業者との合意の有無にかかわらず、支払遅延として本法違反となる」と示しています。同テキストは禁止事項の全体についても、たとえ相手の了解を得ていても、違法性の意識がなくても、規定に触れるときは違反になると明記しています。つまり、受け取る側が「それで構いません」と答えていても、差し引いて支払う側の問題として扱われます。
- Q. 自社は取適法の対象になりますか?
- A. 運送の委託では、資本金と従業員数の2つの物差しで決まります。委託する側の資本金が3億円を超え、受ける側が3億円以下なら対象です。委託する側の資本金が1千万円超3億円以下で、受ける側が1千万円以下でも対象です。加えて今回の改正で従業員数の基準が入り、委託する側の常時使用する従業員が300人を超え、受ける側が300人以下なら、資本金にかかわらず対象になります。個人事業主も「受ける側」に含まれます。自社の取引がどこに当たるかの判断は、公正取引委員会の相談窓口や中小企業庁「取引かけこみ寺」(通話料無料)で確認できます。
この記事の立場
物流の会社で、主に人事の側から現場を見てきた経験からの整理です。本文の施行日・禁止事項・条文番号・支払いのルール・書面の記載事項と保存年限・対象の判定基準は、公正取引委員会と中小企業庁が公表している「中小受託取引適正化法テキスト」(令和7年11月)の本文で確認しています。傭車をめぐる第4節は、条文ではなく私が現場で見てきた構図についての見方です。
ただし、目の前の取引が対象になるか、ある行為が違反に当たるかという個別の判断は、契約と実態によって変わります。そこは上の「どこに相談すればいいか」の窓口へ。本記事は、個別の取引についての助言や、申告・申請の代行を行うものではありません。
出典(国の一次資料)
- 公正取引委員会・中小企業庁「中小受託取引適正化法テキスト」(令和7年11月/法律の名称・施行日・特定運送委託の定義・禁止事項11項目と条文番号・第4条の明示事項・第3条の支払期日・第6条の遅延利息・第7条の2年保存・対象の判定基準・Q&A・相談窓口)公取委・中企庁「中小受託取引適正化法テキスト」(PDF)
- 公正取引委員会「取適法・振興法」特設ページ(改正の概要・令和8年1月1日施行・従業員数の基準)公正取引委員会「取適法・振興法」ページ
- 公正取引委員会「勧告一覧」(違反があった場合の勧告と公表の実際)公正取引委員会 勧告一覧
- 中小企業庁「中小受託取引適正化法・下請中小企業振興法 説明会資料」(制度の概要・支援施策)中小企業庁 説明会資料(PDF)
- 国土交通省「トラック適正化二法のポイント」(再委託2回までの努力義務・2026年4月1日施行)国交省「トラック適正化二法のポイント」(PDF)
法律の名前が変わったところで、荷主との関係がすぐ変わるわけではない。それでも、話し合いのテーブルに置ける紙が一枚増えたことは確かだ。まずは、次に受ける仕事の金額と支払日を書いて残すところから。その手がかりとして、この記事を残しておく。