運送業の法改正は、いつ何が来るのか——2024年から2030年までの年表
「また何か変わるらしい」。そう聞いても、全部を追いかけるのは無理だと思う。改善基準告示、取適法、CLO、許可の更新制——名前だけが次々に増えていく。どれが自社に効くのか、いつまでに何をすればいいのかが分からないまま、日々の運行が回っている。
そこでこの記事では、制度を施行日の順に並べ直した。もう効いているものと、これから来るものに分ける。そして最後に、これだけ数があるのに求められていることは一つしかない、という話をする。
先に結論
① 2024年問題は終わっていない。経営に直接効く部分は、むしろこれから(許可の更新制と、運賃の下限)。
② 制度は多いが、求められているのは4つの数字だけ——賃金・労働時間・原価・評価。
③ 更新審査で見られるのは、その日に用意した書類ではなく日ごろ出してきた書類の積み重ね。だから、いま始めることに意味がある。
制度の年表(2024年〜2030年)
国土交通省・厚生労働省・公正取引委員会の公表資料をもとに、施行の時期だけを並べた。「まだ先の話」と言われがちだが、実際にはもう半分が動いている。
| 時期 | 何が起きるか |
|---|---|
| 2024年4月 施行済 | 時間外労働の上限規制(年960時間)/改善基準告示の見直し——拘束時間は年3,300時間・月284時間以内、休息期間は継続11時間以上を基本とし継続9時間を下回らない |
| 2024年11月 施行済 | フリーランス新法——軽貨物など個人の運転者へ委託する場合、取引条件の書面等での明示、報酬の60日以内の支払い、ハラスメント対策が義務に |
| 2025年4月 施行済 | 全荷主・物流事業者に効率化の努力義務(判断基準:荷待ち・荷役は1運行2時間以内/1回の受渡しごと1時間以内)/運送契約の書面交付義務——荷役・附帯業務などの対価を書面で明示/元請に実運送体制管理簿の作成義務(1年保存) |
| 2025年6月 公布済 | トラック適正化二法が公布(改正貨物自動車運送事業法=令和7年法律第60号ほか)。ここから先の施行日が決まっていく |
| 2026年1月 施行済 | 取適法(旧・下請法)の対象取引に特定運送委託が追加。発注は書面で交付し2年保存、支払いは受領から60日以内、減額と買いたたきは禁止 |
| 2026年4月 施行済 | CLO(物流統括管理者)の選任義務と、中長期計画・定期報告の義務が特定荷主に/白ナンバーを使った荷主に罰則(100万円以下の罰金)/再委託は2回までの努力義務 |
| 2027年ごろ これから | 適正原価の告示が想定される(施行後1年以内)。運賃の「下限」の物差しが示される |
| 2028年6月まで これから | 許可の5年更新制/適正原価を下回る運賃の制限/労働者の処遇確保義務(公正な評価にもとづく適正な賃金の支払)が施行。※公布から3年以内 |
| 2030年ごろ これから | 2年の経過措置を経て、更新の申請・審査が順に開始(5年で一巡する見込み) |
※ 2027年以降の時期は、公布日からの逆算にもとづく見込みです。具体的な期日と基準は、今後の政令・省令で定まります。
※ このほか、毎年の最低賃金の改定や社会保険の適用拡大といった全業種共通の変更、労働者性の判断基準の見直し(国の研究会で検討中・施行日未定)は、この年表には入れていません。
もう効いているもの(4つ)
ここは「これから準備する」ではなく、すでに守っていることを示せるかが問われる段階に入っている。
① 拘束時間の上限(2024年4月〜)
1年3,300時間・1か月284時間以内。休息期間は勤務終了後に継続11時間以上を基本とし、継続9時間を下回ってはならない。宿泊を伴う長距離運送(1週間の運行がすべて片道450km以上で、休息が住所地以外になる場合)には例外があるが、1週間について2回までと回数が決まっており、休息を継続8時間以上に縮めた運行は、その運行が終わった後に継続12時間以上の休息期間を与えることが条件になる。
この告示自体に罰則はないが、違反は行政指導や監査の対象になる。詳しくは改善基準告示とは何かに書いた。
② 運送契約の書面交付(2025年4月〜)
荷役・附帯業務・有料道路料金などの対価を、書面で明示する義務。「運賃に含まれている」で済ませられなくなった。荷待ちや荷役を別建てにする考え方は荷待ち時間を別料金にすると荷役料とは・相場にまとめている。
③ 取適法(2026年1月〜)
発注書面の交付と2年間の保存。支払いは受領から60日以内。減額・買いたたき・購入強制の禁止。相手の了解を得ていても、違反は違反という設計になっている。→ 取適法(下請法改正)
なお、会社どうしの取引が取適法なら、個人への委託はフリーランス新法(2024年11月〜)が受け持つ。軽貨物や個人の傭車に出しているなら、こちらが先に効いている。契約の名前と実態の話は労働者性とは何かへ。
④ CLO・再委託2回まで・白トラ罰則(2026年4月〜)
CLOの選任義務を負うのは一定規模以上の荷主で、10〜29名の運送会社に直接の義務はない。ただし対象になった荷主は荷待ちや積載率の計画を国に出し、結果を報告する立場になる。報告するには測らなければならず、測るのは荷物を運んでいる側だ。→ CLO(物流統括管理者)とは何か
これから来るもの(3つ)
ここが、経営に一番効く。
① 運賃に「下限」ができる
いまの標準的運賃は、罰則のない参考値として示されてきた。ただし国土交通省の資料には「これに伴い、『標準的運賃』は廃止する」と明記されている。参考値だったものを、適正原価を下回る運賃での運送を禁じる、より実効性のある制度へ置き換える方向だ。→ 標準的運賃とは/建設には基準、物流には下限
② 許可が5年ごとの更新制になる
許可基準に「法令の規定を遵守して事業を遂行することが見込まれること」が加わる。先に更新制へ移った貸切バスでは、審査基準に人件費や車両整備費が所要の単価を下回る場合は不許可という項目がある。つまり「安く回していること」自体が、更新の場で問われる設計になっている。→ 運送業の許可に更新制が入る
③ 「公正な評価にもとづく賃金」が義務になる
改正法には、事業者の義務として「運転者その他の労働者が有する知識、技能その他の能力についての公正な評価に基づく適正な賃金の支払その他の労働者の適切な処遇を確保するために必要な措置を実施するものとする」という趣旨の規定が置かれ、これが許可更新の要件にも連動する。
評価制度は「あったほうがいい」ものから、「無いと説明できない」ものに変わっていく。→ ドライバーの人事評価
バラバラに見えて、求められているのは4つの数字
制度ごとに対応しようとすると、際限がない。ただ、並べてみると、どれも同じことを求めている。
| 数字 | 何を出せるか | 関係する制度 |
|---|---|---|
| 賃金 | 誰に、いくら、なぜその額なのか | 処遇確保義務/許可更新 |
| 労働時間 | 拘束と休息の記録。上限まであと何時間か | 改善基準告示/監査 |
| 原価 | その運賃の根拠。どの便が赤字か | 適正原価/取適法(買いたたき) |
| 評価 | 何をどう評価しているかの説明 | 処遇確保義務/許可更新 |
「この4つが、求められたときにすぐ出てくる会社かどうか」。制度が増えても、問われているのはここだけだ。逆に言えば、4つを出せる状態を先に作っておけば、次に何が来ても対応は同じ形で済む。
月曜の朝にやること
制度を全部読む必要はない。お金もかからない。次の3つから始まる。
- 毎年の事業報告書を、期限どおりに出す。これだけで、更新の準備の半分は終わる
- ドライバー1人・1日分の拘束時間を、手で数えてみる。始業から終業まで、荷待ちも荷役も点呼も含めて。上限まであと何時間かが分かる
- 次に受ける仕事の金額と支払日を、書面に残す。紙でなくメールでもいい。運送申込書の形にすれば、約款側の書面と兼ねられる(保存は2年)
どれも、いま記録がないものを記録に変えるだけの作業だ。道具を入れる話は、そのあとでいい。何をどう分けて手放すかは業務分解とはに書いた。
どこに相談すればいいか
制度が多いぶん、窓口も分かれる。内容で行き先が変わる。
- 拘束時間・賃金・就業規則のこと → 社会保険労務士。顧問がいるなら、まずそこへ
- 許可・監査・事業報告のこと → 所管の地方運輸局、または所属するトラック協会の相談窓口。実務の当てはめに一番近い
- 運賃・支払い・荷主との取引のこと → 公正取引委員会(フリーダイヤル 0120-060-110)、中小企業庁「取引かけこみ寺」(0120-418-618・通話料無料)
- 契約書・紛争のこと → 弁護士
よくある質問
- Q. 2024年問題は、もう終わったのですか?
- A. 終わっていません。2024年4月に始まったのは、時間外労働の上限規制(年960時間)と改善基準告示の見直しで、これは制度の入口にあたります。その後も、2026年1月に取適法、2026年4月にCLOの選任義務と白トラ荷主への罰則、再委託2回までの努力義務が施行されました。さらに許可の5年更新制と、適正原価を下回る運賃の制限は、公布から3年以内の施行が予定されています。むしろ、経営に直接効く部分はこれからのほうが多いと言えます。
- Q. たくさんありすぎて、何から手をつければいいのか分かりません。
- A. 制度ごとに対応しようとすると際限がありません。並べてみると、どれも同じ4つの数字を求めています。賃金(誰にいくら、なぜ)、労働時間(拘束と休息の記録)、原価(運賃の根拠)、評価(公正な評価の説明)です。この4つが求められたときにすぐ出せる状態にしておけば、制度が増えても対応は同じ形で済みます。まずは、いま記録がないものを記録に変えるところからです。
- Q. 許可の更新制は、いつから始まりますか?
- A. 改正貨物自動車運送事業法(令和7年法律第60号)は2025年6月11日に公布されました。許可基準の追加と更新制度の部分は公布から3年以内の施行とされ、施行後さらに2年の経過措置を経てから、更新の申請と審査が始まります。一巡するのは5年ほど先の見込みです。ただし、審査で見られるのはその日に用意した書類ではなく、日ごろ提出してきた書類の積み重ねです。先に更新制へ移った貸切バスでは、社会保険料の納入証明や労働保険の申告書、賃金台帳などの提出が求められています。
この記事の立場
物流の会社で、主に人事の側から現場を見てきた経験からの整理です。年表の施行時期・条文の趣旨・数値は、国土交通省・厚生労働省・公正取引委員会が公表している資料で確認しています。2027年以降の時期は公布日からの逆算にもとづく見込みで、具体的な期日と基準は今後の政令・省令で定まります。
ただし、自社が制度の対象になるか、ある運行や契約が基準に当てはまるかという個別の判断は、実態によって変わります。そこは上の「どこに相談すればいいか」の窓口へ。本記事は個別の判断や手続きの代行を行うものではありません。
出典(国の一次資料)
- 国土交通省「トラック適正化二法のポイント」(改正法の全体像・段階施行・再委託2回までの努力義務・白トラ荷主罰則)国交省「トラック適正化二法のポイント」(PDF)
- 厚生労働省「トラック運転者の改善基準告示」(拘束時間の上限・休息期間・長距離運送の特例)厚労省 自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト
- 公正取引委員会・中小企業庁「中小受託取引適正化法テキスト」(令和7年11月/特定運送委託・書面交付と2年保存・支払期日60日・禁止事項)公取委・中企庁「中小受託取引適正化法テキスト」(PDF)
- 国土交通省「『標準的な運賃』・『標準運送約款』の改正等について」(標準的運賃の内容・待機時間料・積込料・取卸料)国交省「標準的な運賃」等の改正について(PDF)
- 国土交通省 法案概要(「これに伴い、『標準的運賃』は廃止する」の記載)国交省 改正法の概要(PDF)
- 国土交通省「貸切バス事業許可の更新制の導入」(先行事例の審査基準・添付書類)国交省「貸切バス事業許可の更新制の導入」(PDF)
- 公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省 リーフレット「フリーランスの取引に関する新しい法律」(2024年11月1日施行・令和8年1月改訂)中小企業庁 掲載リーフレット(PDF)
- 経済産業省「物流効率化法 CLO取組事例集」(荷主側の取組の実際)経済産業省「CLO取組事例集」(PDF)
制度の名前を全部覚える必要はない。4つの数字を、求められたときに出せるかどうか——見るところはそこだけだ。期限は決まっていて、いまからならまだ間に合う。まずは1人・1日分の記録から。