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フリーランス新法とは何か——委託ドライバーへの発注は、どう変わったのか

次のどれかに当てはまるなら、この記事は自社の話だ。

こうした「会社から個人への仕事の頼みごと」(法律の言葉では業務委託)に、専用のルールができた。2024年11月1日に施行された、通称フリーランス新法(正式には「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」)だ。会社どうしの取引を縛るのが取適法(下請法の改正)なら、個人への頼みごとを縛るのがこの法律になる。

ポイントは、資本金の線引きがないこと。10人の会社が1人の軽貨物ドライバーに頼んでも、そのまま対象になる。以下、社長が実際に聞きそうな順番で、問いに答える形で整理する。

うちも対象になるのか

従業員を使っている会社が、従業員を使っていない個人に仕事を頼めば、対象になる。国のリーフレット(公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省の連名)の定義では、フリーランス(特定受託事業者)とは「業務委託の相手方である事業者で、従業員を使用しないもの」。

細かい線も引かれている。ここでいう「従業員」に短期のアルバイトは含まれず、週20時間以上かつ31日以上の雇用が見込まれる人を指す。だから「奥さんに手伝ってもらっているだけの傭車さん」は、たいてい「従業員を使用しない個人」のままだ。また、どこかの会社で働きながら副業で走っている人も、事業者として受けていれば対象になる。

逆に対象外なのは、消費者から直接頼まれる仕事(引越しの手伝いなど)と、物の売買。「事業者から個人への頼みごと」だけがこの法律の守備範囲だ。

義務は、いくつあるのか

7つ。ただし全部が一度に来るのではなく、付き合いの長さで3段階に増えていく。現場の場面で言うとこうなる。

付き合いの長さやること(現場で言うと)
スポット1本でも
(すべての委託)
① 頼んだ内容を文字で残す(金額・支払日・仕事の中身。LINEやメールでいい)
② 荷物を運び終えた日から60日以内に払う
④ 募集を出すなら、実際と違うことを書かない
⑥ ハラスメントの相談先を決めて伝えておく
1か月以上
(月ぎめのコースなど)
+③ 7つの「してはいけないこと」が加わる(後述。決めた運賃を後から下げる、など)
6か月以上
(専属に近い傭車)
+⑤ 「子どもの通院で」等の申出には、できる範囲で応じる
+⑦ やめてもらうときは30日前に言う(求められたら理由も)

毎月決まったコースを任せている傭車や、専属に近い軽貨物は、ほぼ確実に「6か月以上」の段まで到達する。契約を更新し続けて合計で超える場合も含む、とされている。

「明日走れる?」の電話だけでは、なぜまずいのか

義務①が「頼んだら、直ちに、書面等で取引条件を示すこと」だからだ。電話で頼むこと自体は禁止されていない。頼んだあと、条件を文字にして残していないことがまずい。

といっても、契約書を作れという話ではない。いつもの配車連絡に、金額と支払日を足すだけで形になる。たとえばこうだ。

文例(LINEやメールでこのまま使える・数字は架空)

「明日8/12(水)、A倉庫(福岡市東区)8:00集荷 → B店(久留米市)納品。2t箱車、運賃18,000円・高速代別途実費。支払いは8月末締め・9月20日払いでお願いします。——◯◯運送・△△」

明示する項目として、仕事の内容・報酬の額・支払期日・双方の名称・頼んだ日・荷物を受け渡す日と場所などが決められている。上の文例は、それをいつもの連絡文に落としただけだ。

支払いは、いつまでに払うのか——8月1日の仕事なら

ルールは「荷物などを受け取った日から数えて60日以内の、できる限り早い日」に支払期日を置き、そのとおり払うこと。起算日は発注した日ではなく、仕事が終わった日(受領した日)だ。

日付で数えると

8月1日に走ってもらった(=受領)場合、8月1日から数えて60日目は9月29日。支払期日はここまでに置く必要がある。
・「月末締め・翌月20日払い」→ 8/1分は9/20払い=51日目。収まる
・「月末締め・翌々月末払い」→ 8/1分は10/31払い=92日目。明確に超える
・「月末締め・翌月末払い」→ 8/1分は9/30払い=61日目。月初の分が計算上はみ出す。締めと支払日の組みを一度数えておきたい

1か月以上の付き合いで、してはいけない7つとは

1か月以上の委託になると、7つの行為が禁止される。名前だけ見てもイメージしにくいので、運送の現場に置き換える。

禁止行為現場で言うと
受領拒否頼んだ配送を、こちらの都合で当日「やっぱりいい」と断り、報酬も払わない
報酬の減額決めた運賃から、あとで引く。「燃料が下がったから」「協力金として」と名目を付けても同じ
返品(物を納めてもらう委託の場合)一度受け取ったものを、理由なく返して支払わない
買いたたき相場より著しく低い運賃を一方的に決める。「この額が嫌なら他に頼む」で押し切る形
購入・利用強制制服・端末・保険などを自社指定で買わせる/入らせる、系列の整備工場を使わせる
不当な経済上の利益の提供要請協賛金や手数料の名目で徴収する、倉庫内の作業をただで手伝わせる
不当な給付内容の変更・やり直し決めたあとでコースや積み増しをただで追加する、理由を示さずやり直させる

会社どうしの取引で禁止されている行為が、個人相手にも同じように禁止された——そう捉えると座りがいい。

6か月を超えると、何が増えるのか

2つ増える。ひとつは育児や介護と仕事の両立への配慮(義務⑤)。リーフレットの例をそのまま挙げると、「子の急病により予定していた作業時間の確保が難しくなったため、納期を短期間繰り下げたい」という申出に応じて納期を変える、「介護のために特定の曜日はオンラインで就業したい」に応じて調整する、といった対応だ。運送なら、通院日の配車を外す・時間帯を変えるあたりが実務になる。どうしても応じられないときは、理由の説明が必要とされている。なお、6か月未満の委託でも、同じ配慮は努力義務として求められている(法第13条第2項)。6か月以上で「義務」に変わる、という違いだ。

もうひとつは中途解除の30日前予告(義務⑦)。6か月以上任せてきた人に「今月で終わり」は、もうできない。原則30日前までに伝え、求められたら理由も開示する。長く使った傭車の切り方こそ、この法律で一番変わった部分だと思う。

募集を出すときは、何に気をつけるのか

求人サイトやSNSにドライバー募集を出すとき、実際と違うことを書いてはいけないし、内容は最新に保つ(義務④)。たとえばこういう掲載が該当しうる。

掲載時には、氏名(名称)・住所・連絡先・業務の内容・従事する場所・報酬の6情報の記載が必要とされる。あわせて義務⑥として、ハラスメントの方針を明確にして周知し、相談に対応する体制を作ること——社員向けの仕組みを、委託先の個人にも広げるという話だ。

「業務委託だから、労働法は関係ない」でいいのか

ここが一番深い論点だと思う。リーフレットにはこう明記されている。「契約名称が『業務委託』であっても、働き方の実態として労働者である場合は、この法律は適用されず、労働基準法等の労働関係法令が適用されます」。

つまり国は2段構えで見ている。実態が事業者なら、フリーランス新法で守る。実態が労働者なら、労働法で守る。「契約書に業務委託と書いてあるから自由」という場所は、もう残っていない。

私が見てきた範囲でも、委託のドライバーが同じ現場で、同じ荷物を、社員と同じ手順で運んでいる場面は珍しくなかった。取引先というより、自社の一部のように働いている。その距離の近さ自体が悪いわけではない。ただ、たとえばこういう扱いが重なるほど、「事業者への委託」ではなく「労働者」に近づいていく。

ひとつ当てはまれば即アウト、という話ではなく、実態の総合判断だ。ただ、思い当たる項目が多いなら、一度立ち止まる価値がある。線の引かれ方は労働者性とは何かに書いた。

会社の傭車と個人の傭車で、法律はどう分かれるのか

頼む相手適用される法律入口の要件
従業員を使っている会社取適法資本金または従業員数の区分による
従業員を使っていない個人フリーランス新法要件なし。頼めば対象

共通の骨格は「発注は文字で残す・支払いは受領から60日以内」。運送申込書と支払サイトの実務を一度整えれば、相手が会社でも個人でも同じ形で対応できる。2024年からの制度の全体は法改正の年表にまとめている。

月曜の朝にやること

  1. 個人に頼んでいる相手を、名前で書き出す。軽貨物・1人の傭車・繁忙期の応援——「従業員を使っていない個人」なら、この法律の対象
  2. その人たちへの発注が、文字で残っているかを見る。残っていなければ、次の1本から配車連絡に「金額と支払日」を足す。上の文例のとおり、LINEでいい
  3. 付き合いが6か月を超えている人を数える。その人をやめてもらうときは30日前予告——これを頭に入れておくだけで、切り方の事故が防げる

どれもお金はかからない。書面と支払期日の型は取適法とほぼ共通なので、一度作れば両方に効く。

どこに相談すればいいか

この法律は所管が分かれている。リーフレットの案内どおりに整理すると:

よくある質問

Q. フリーランス新法は、いつから施行されていますか?
A. 2024年(令和6年)11月1日に施行されています。正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」で、フリーランス・事業者間取引適正化等法とも呼ばれます。フリーランスと発注事業者の間の取引の適正化と、フリーランスが安心して働ける就業環境の整備を目的とした法律です。運送の現場では、軽貨物の個人事業主や、従業員を使わずに1人で走っている傭車への業務委託が対象になります。
Q. 一人親方のドライバーや、副業で走っている人への委託も対象になりますか?
A. 従業員を使用していない事業者への業務委託であれば対象です。この法律でいうフリーランス(特定受託事業者)は「業務委託の相手方である事業者で、従業員を使用しないもの」とされており、どこかの会社に雇用されている人が副業として事業者の立場で業務委託を受ける場合も含まれます。なお「従業員」には短時間・短期間の一時的な雇用は含まれず、週の労働時間20時間以上かつ31日以上の雇用が見込まれる人を指します。一方、消費者を相手に取引する場合や、委託ではなく売買にあたる取引は、この法律の対象外です。
Q. 取適法(下請法の改正)とは、どう使い分けるのですか?
A. 相手で分かれます。従業員を使っている会社への運送委託は、資本金や従業員数の要件を満たせば取適法の対象です。従業員を使っていない個人への業務委託は、フリーランス新法の対象です。つまり、法人の傭車には取適法、個人の傭車や軽貨物の個人事業主にはフリーランス新法、という整理になります。どちらも「発注は書面等で明示する」「支払いは受領から60日以内」という共通の骨格を持っているので、書面と支払期日の実務を一度整えれば、両方に対応できます。

この記事の立場

物流の会社で、主に人事の側から現場を見てきた経験からの整理です。本文の施行日・対象の定義・7つの義務と適用の区分・支払期日・中途解除の予告・配慮の例示は、公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省の連名リーフレット(令和8年1月改訂版)の本文で確認しています。文例と日付の計算・現場への置き換えは筆者によるもので、文例中の金額・地名・社名は架空です。

ただし、個別の委託がこの法律の対象になるか、ある行為が違反にあたるかは、契約と働き方の実態によって変わります。そこは上の「どこに相談すればいいか」の窓口へ。本記事は個別の判断や手続きの代行を行うものではありません。

出典(国の一次資料)

個人に頼る場面は、これから増えていく。だからこそ、頼み方の形を先に整えておきたい。発注は文字で残す。60日以内に払う。切るなら30日前に言う。覚えることは、この3行に収まる。

この記事は「2024年からの法改正」シリーズの一部です(全13本)